ポータブル電源を選ぼうとすると、まず「500Wh」「1000Wh」「2000Wh」という数字の壁にぶつかります。大きいほど良いのは分かるけれど、自分の家にどれが要るのかが分からない。この記事では、容量の単位であるWh(ワットアワー)の読み方と、家電별の消費電力から使える時間を出す計算のしかた、そして停電の想定日数から必要な容量を逆算する順番をまとめます。結論だけ先にお伝えすると、家庭の停電対策としては1000Wh前後が最初の一台としてちょうどよい線です。
容量(Wh)の読み方:スマホ何回分かで実感する
Whは「ワット(W)× 時間(h)」で、電気をためられる量を表します。100Wの家電を10時間動かせば1000Wh。つまり1000Whは「100Wの家電を10時間動かせる量」という理解でまず十分です。
ただし、表示されている容量がそのまま使えるわけではありません。ポータブル電源の中身は直流(DC)ですが、コンセント(AC)に差す家電を動かすときは交流に変換する必要があり、この変換で1〜2割ほどが熱として失われます。カタログの1000Whに対して、実際にコンセントから取り出せるのはおおむね800〜850Wh程度と見ておくと計算がずれません。USB端子から直接充電する場合はこの変換が入らないので、ロスはもっと小さくなります。
スマホに置き換えるとどうでしょうか。最近のスマホのバッテリーは5000mAh前後、電圧を掛けると20Wh弱です。充電時のロスを含めて1回25Whとすると、1000Whのポータブル電源でスマホ約30〜40回分。夫婦二人で1日1回ずつ充電しても、単純計算で2週間以上もつ量です。スマホの充電だけを考えるなら1000Whは明らかに過剰で、300Whクラスでも十分足ります。容量が要るのは、スマホ以外を動かしたいときなのです。
Whは「100Wの家電を何時間動かせるか」の量。表示容量の8割が実際に使える目安です。

家電別の消費電力早見表
使える時間を知るには、動かしたい家電が何Wなのかを先に知る必要があります。消費電力は本体の裏や側面のシールに必ず書いてあるので、気になる家電は一度見てみてください。ここでは一般的な目安を挙げます。
スマホ・照明・扇風機などの小物
命綱になるのは、実はこの小さい家電たちです。消費電力が一桁から数十Wと小さく、1000Whあれば何日も動きます。
| 家電 | 消費電力の目安 | 1000Whでの稼働時間 |
|---|---|---|
| スマホ充電 | 10〜20W | 30〜40回分 |
| LEDランタン・電球 | 5〜10W | 80〜170時間 |
| DCモーターの扇風機 | 20〜30W | 28〜42時間 |
| ノートパソコン | 40〜60W | 14〜20時間 |
| ポータブルテレビ(20型前後) | 40〜60W | 14〜20時間 |
| CPAP(睡眠時無呼吸の治療機器) | 30〜60W | 2〜4晩 |
稼働時間は変換ロスを引いた850Wh基準で計算しています。夏の停電で扇風機を回しながら夜スマホを充電する、という使い方なら、1000Whは丸2日近くもちます。
冷蔵庫・電子レンジ・電気毛布
一方、熱を作る家電とモーターを持つ家電は桁が変わります。
| 家電 | 消費電力の目安 | 1000Whでの稼働時間 |
|---|---|---|
| 電気毛布 | 50〜80W | 10〜17時間 |
| 家庭用冷蔵庫(400L前後) | 1日あたり0.7〜0.9kWh | 約1日 |
| 車載用ポータブル冷蔵庫 | 40〜60W(断続運転) | 16〜25時間 |
| 電子レンジ | 1000〜1400W | 合計40分程度 |
| 電気ケトル | 1200W前後 | 合計40分程度 |
| ドライヤー | 1200W前後 | 合計40分程度 |
| エアコン(6畳・冷房) | 400〜600W | 1.5〜2時間 |
冷蔵庫だけ書き方が違うのに気づかれたと思います。冷蔵庫はコンプレッサーが動いたり止まったりを繰り返すため、瞬間の消費電力(150W前後)で計算すると実態と大きくずれます。省エネ基準を満たした最近の400Lクラスは年間消費電力量が250〜300kWh程度で、1日に直すと0.7〜0.9kWhほど。1000Whのポータブル電源で、ちょうど1日弱まかなえる計算です。
電気ケトルやドライヤーが「合計40分」なのは、40分連続で使うという意味ではありません。1回3分使えば十数回分、という積み上げの目安です。熱を作る家電は、短時間でも容量をごっそり削ります。
1000Whで何時間動く?計算のしかた
式そのものは単純です。
使える時間(h) = 容量(Wh) × 0.85 ÷ 家電の消費電力(W)0.85が変換ロスの分です。たとえば60Wの電気毛布なら、1000 × 0.85 ÷ 60 = 約14時間。80Wのノートパソコンなら約10.6時間。この掛け算と割り算さえできれば、店頭で製品を前にしたときも、自分の家の家電に引き直して判断できます。
複数の家電を同時に使うときは、消費電力を足してから割ります。冷蔵庫(平均35W相当)+LED照明(10W)+扇風機(25W)=70Wなら、850 ÷ 70 = 約12時間。ここに1日3回のスマホ充電(75Wh)が加わると、実質10時間ほどに縮みます。
まず「停電中もこれだけは動かしたい」家電を3つ書き出し、その消費電力を合計してから容量を選びます。
停電の想定日数から逆算する容量の目安
容量選びで迷子になるのは、「あれもこれも動かしたい」から始めてしまうときです。順番を逆にして、何日分の停電を、どのレベルでしのぐかから決めると、答えは驚くほど早く出ます。
一晩しのぐなら
台風や落雷による停電の多くは、数時間から一晩で復旧します。この範囲なら、照明・スマホ・情報収集用のラジオやテレビが動けば足ります。必要な電力は合計しても50W程度、一晩10時間で500Wh。500Wh前後のモデルで足ります。重さも5〜7kg程度と、女性ひとりで持ち運べる範囲です。夏の夜に扇風機を足しても、まだ余裕があります。
逆に言えば、一晩の停電に備えるだけなら、大容量機は要りません。モバイルバッテリーと乾電池式ランタンで乗り切れる家庭も多いはずです。
2〜3日の停電に備えるなら
話が変わるのは、冷蔵庫の中身を守りたいときと、暑さ寒さをしのぎたいときです。冷蔵庫を1日動かすだけで1000Wh級の容量をほぼ使い切りますから、2〜3日を電気だけでまかなうなら1500〜2000Whが要ります。
ただ、ここで「じゃあ2000Wh」と即断しないでください。冷蔵庫は扉を開けなければ、庫内温度は真夏でも半日程度は保たれます。冷凍室にペットボトルの氷を作り置きしておけば、さらに延びます。2〜3日の停電なら、1000Wh+ソーラーパネル+冷蔵庫の開閉を我慢するという組み合わせで、多くの家庭は足ります。
夫と二人、猫が一匹の世帯で行き着いたのは1000Wh前後でした。決め手は重さです。1500Whを超えると15kg以上になり、押し入れから出すのがおっくうになります。年に一度も動かさない20kgの機械より、季節ごとに引っ張り出して使える12kgのほうが、いざというときに確実に働いてくれます。
高齢のご家族と同居されている場合や、医療機器を使っている場合は事情が違います。CPAPや吸引器のように「止まると困る」機器があるなら、必要な日数分を必ず計算し、余裕を持った容量を選んでください。機器の消費電力は取扱説明書に記載があります。
容量だけでは決まらない:出力(W)との関係
ここが、容量ばかり見て買った人がつまずくところです。Whは「どれだけためられるか」ですが、家電が動くかどうかを決めるのは定格出力(W)のほうです。
1000Whの製品でも、定格出力が600Wなら、1000Wの電子レンジは動きません。容量が満タンでも、蛇口が細ければ勢いよく水は出ないのと同じです。電子レンジ・電気ケトル・ドライヤー・電気ポットといった熱を作る家電を使いたいなら、定格出力1500W以上が条件になります。
もうひとつ見落としがちなのが起動電力です。冷蔵庫や扇風機のようにモーターを持つ家電は、動き出す瞬間だけ定格の数倍の電力を必要とします。150Wの冷蔵庫が起動時に一瞬500W近くまで跳ね上がることもあり、出力にギリギリの機種を選ぶと保護回路が働いて止まってしまいます。モーター家電を使う予定があるなら、出力には2〜3割の余裕を持たせてください。
出力のほかにも、バッテリーの種類(リン酸鉄リチウムかどうか)、PSEマークの有無、保証年数など、容量以外に確かめたい項目がいくつかあります。選び方の全体像はポータブル電源の選び方で整理していますので、購入前に一度目を通してみてください。

容量が足りないときの工夫:ソーラー充電と使う順番
容量の不足は、お金だけでなく運用でも埋められます。効くのは二つ、入れる工夫と減らす工夫です。
入れる工夫はソーラーパネルです。100Wのパネルでも、晴天なら1日で400〜500Whほど戻せます(実効はパネルの角度と天候に左右され、曇天では半分以下になります)。200Wクラスなら1000Whのポータブル電源を5〜6時間で満充電近くまで戻せる計算で、停電が長引いたときに「毎日少しずつ回復する」という状態を作れます。長期停電で効いてくるのは容量の大きさより、この補給ルートの有無です。
減らす工夫は、使う順番を決めておくことです。電気は生活に必要な順に配ります。①情報(スマホ・ラジオ)→②照明→③冷蔵庫→④暑さ寒さ対策(扇風機・電気毛布)→⑤調理・その他、という優先順位を家族で共有しておくと、残量が減ってきたときに迷いません。特に調理系は最後です。カセットコンロがあればお湯は沸かせますから、貴重な電気をケトルに使う必要はありません。
ポータブル電源は満充電のまま長期保管すると劣化が進みます。3〜6か月に一度、残量6〜8割程度を目安に充電し直してください。
よくある質問
冷蔵庫を動かすには何Wh必要?
省エネ基準を満たした400Lクラスの冷蔵庫で、1日あたり0.7〜0.9kWhです。変換ロスを見込むと、丸1日動かすのに1000〜1200Whの容量が必要になります。2日なら2000Wh級、というのが単純計算ですが、実際には扉を開けない時間を作れば消費は減ります。
注意したいのは定格出力です。冷蔵庫は起動時に電力が跳ね上がるため、定格出力300W程度の小型機では動かせないことがあります。冷蔵庫を候補に入れるなら、容量よりまず出力を確認してください。10年以上前の冷蔵庫は消費電力が今の1.5〜2倍あるモデルも多いので、お使いの機種の年間消費電力量を本体シールで確認するのが確実です。
大は小を兼ねる?大容量のデメリットは?
兼ねません。容量が増えるほど、確実に重く・高く・充電に時間がかかるようになります。
バッテリーは使わなくても少しずつ劣化します。年に一度も出番のない大容量機より、キャンプやベランダ作業で日常的に使う中容量機のほうが、結果として災害時にきちんと働きます。大容量を検討中の方は大容量ポータブル電源のメリットとデメリットもあわせてご覧ください。
容量選びは、完璧な一台を探す作業ではありません。一晩しのぐなら500Wh、冷蔵庫まで考えるなら1000Wh。まずはこの二択で決めて、足りないと感じたらソーラーパネルを足す——それで十分に間に合います。製品の価格や仕様は変わりますので、購入前にメーカーの公式情報で最新のスペックをご確認ください。
