赤ちゃんがいるご家庭の防災は、特別なセットを一から買いそろえる話ではありません。大人の備えに「その子の月齢でしか使えないもの」を足していくだけです。この記事では、ミルクとおむつを何日分そろえればいいのかという量の決め方、月齢別に持っておきたいもの、そしていちばんの難関であるサイズアウト・月齢アウトをどう防ぐかまでを、順番にお伝えします。
赤ちゃんの備えは「大人の備え+月齢で変わる専用品」
まず全体像を整理します。水・食料・トイレ・明かり・電源といった土台は、赤ちゃんがいてもいなくても同じです。そこに上乗せするのが、ミルク・おむつ・離乳食・着替えといった専用品。この上乗せ分には、大人の備えにはない厄介な性質が二つあります。
ひとつは、代わりがきかないこと。大人なら「おにぎりがなければパンでいい」で済みますが、生後3か月の赤ちゃんに大人用の非常食は出せません。もうひとつは、支援が届きにくいこと。避難所に届く物資は大人向けが中心で、届いたとしてもサイズや月齢が我が家の子に合うとは限りません。おむつのSサイズだけが足りない、というような不足の仕方をします。
だからこそ、赤ちゃんの専用品は「自分の家で確保しておく」前提で考えます。逆にいえば、そこさえ押さえれば、あとは大人の備えの延長で十分です。
まず結論:何日分そろえる?
食料や水の家庭備蓄について、農林水産省は最低3日分、できれば1週間分を目安として示しています。これは大人も子どもも共通の土台です。そのうえで、赤ちゃんの専用品はもう少し厚めに持ちます。
ミルク・おむつ・離乳食は、大人の備蓄より長い「2週間分」を目安にする
理由は先ほどのとおりで、物流が戻っても、乳児用品は棚から真っ先に消えて戻りが遅い品目だからです。実際、災害のたびに紙おむつと液体ミルクは早い段階で品薄になります。2週間と聞くと大げさに感じるかもしれませんが、おむつは普段使っているものを1袋多めに置いておくだけで、かなりの日数分になります。買い足しではなく「置き場所の確保」の問題だと考えると、ぐっと現実的になります。
ここで大事なのは、備蓄用に特別なものを買わないことです。普段使っているミルク、普段使っているおむつ、普段食べているベビーフードを多めに持つ。災害時に初めて口にするものは、赤ちゃんが受け付けないことがあります。
ミルク・飲みものの備え
停電と断水が同時に起きると、粉ミルクの調乳はかなり手間になります。お湯を沸かす熱源、調乳に使える水、哺乳瓶を洗う水、消毒の手段。この四つが全部必要だからです。ここをどう軽くするかが、ミルク備蓄の設計そのものになります。
液体ミルクと粉ミルクの使い分け
液体ミルクは、封を開けてそのまま飲ませられます。お湯も水も消毒も要りません。停電直後のいちばん混乱している時間帯を乗り切る札として、これ以上のものはありません。一方で1本あたりの単価は粉ミルクより高く、かさばります。
そこで、最初の3日分は液体ミルク、残りは粉ミルクという配分にすると、費用も置き場所も無理がありません。粉ミルクはスティックタイプやキューブタイプにしておくと、計量スプーンや缶を開ける手間がなく、暗い場所でも量を間違えません。
哺乳瓶まわりは、使い捨てを軸にします。使い捨ての哺乳瓶や、消毒済みの乳首がセットになった製品を数回分。加えて、洗えないときに哺乳瓶の内側に敷く清潔なポリ袋(食品用の未使用のもの)を用意しておくと、同じ哺乳瓶を洗わずに使い回せます。紙コップから少しずつ飲ませる方法(カップ授乳)は、月齢の低い子にも助産師が行う手技として使われますが、ぶっつけ本番では難しいので、平時に一度試しておくと落ち着いて対応できます。
粉ミルクを溶かす水は、硬度の低い軟水を選びます。国内で売られている多くのミネラルウォーターは軟水ですが、輸入品には硬度の高いものがあり、赤ちゃんの腎臓には負担になります。備蓄用の水を買うときは、ラベルの硬度表示を一度確認しておいてください。
液体ミルクを使うときの注意
開封したら残しておかず、その回で飲みきる(開けたら常温で保存しない)
温める場合は、湯せんが基本。紙パックや缶を直火・電子レンジにかけない
パッケージに書かれた保存条件(高温・凍結を避ける)を守る。夏場の車内や玄関の直射日光は避ける
母乳育児でも備えたいもの
完全母乳だから飲みものの備えは要らない、とは考えないでおきます。避難生活では睡眠も水分も食事も乱れ、母乳の出方が一時的に変わることがあります。母親自身が体調を崩したり、家族と離れて動けなくなったりする可能性もあります。
ですから、母乳育児のご家庭でも液体ミルク数本と使い捨て哺乳瓶は持っておきます。これは「母乳をやめる備え」ではなく、数日ぶんの保険です。あわせて、授乳する側の水分と間食(ゼリー飲料、ナッツ、ようかんなど、片手で食べられるもの)を多めに。授乳ケープと、羽織れる大判のストールもあると、避難所で人目を遮るのに役立ちます。

おむつ・おしりふきの必要量の計算
おむつの必要枚数は、難しく考えずに「ふだんの1日の枚数 × 14日」で出します。月齢ごとの目安は次のとおりです。
| 月齢 | 1日の交換枚数の目安 | 2週間分の枚数 |
|---|---|---|
| 新生児〜生後3か月 | 10〜12枚 | 約140〜170枚 |
| 生後4〜11か月 | 7〜8枚 | 約100〜110枚 |
| 1歳〜 | 5〜6枚 | 約70〜85枚 |
テープタイプのSサイズなら1袋80枚前後の製品が多いので、新生児期でも「常に2袋のストック」があれば計算は合います。ふだんの買い置きを少し前倒しにするだけです。
おしりふきは、おむつ替え以外にも大活躍します。手や口を拭く、体を拭く、食器を拭く。水が使えない時期の衛生をほぼ一手に引き受けるので、おむつより多めに考えて、未開封を3〜4パック。乾燥防止のふたを付けたものだと、開封後も長持ちします。
そして意外と忘れがちなのが、使用済みおむつの処理です。ごみ収集は災害後しばらく止まります。においが漏れにくい防臭袋を、おむつと同じ枚数だけ用意しておいてください。避難所でも在宅避難でも、においの問題は精神的にこたえます。
おむつ・おしりふき・防臭袋は3点セットで数える
月齢別チェックリスト
赤ちゃんの備えは、半年経つと中身が変わります。今の月齢のところだけ見ていただければ大丈夫です。
ねんね期(0〜6か月)
この時期に必要なのは、飲みものと体温の管理です。液体ミルク・粉ミルク・使い捨て哺乳瓶、おむつ一式に加えて、体温を保つものを厚めに。新生児は自分で体温調節ができないので、季節を問わずおくるみ・毛布・保温シートを入れておきます。冬なら、電源が要らない使い捨てカイロも(直接肌に当てず、抱っこひもの外側から使います)。
着替えは上下2〜3組、ガーゼ数枚。母子健康手帳と保険証、乳幼児医療証は、コピーかスマホの写真で持ち出し袋にも入れておきます。かかりつけの小児科の連絡先と、常用している薬があればその名前を書いたメモも一緒に。
離乳食期
離乳食が始まると、ミルクだけでは足りなくなります。備えるのは、温めなくても食べられる市販のベビーフードです。パウチタイプやスプーン付きのカップタイプは、皿も箸も要らずそのまま食べさせられます。おかゆ、野菜、たんぱく質のものを何種類か。ふだん食べ慣れている味を選ぶのが鉄則です。
使い捨てのスプーン、紙皿と、皿にかぶせるラップ(洗わずに済みます)。水分補給用の乳児用イオン飲料や麦茶も常温保存できるものを。食物アレルギーがある場合は、アレルゲンと対応を書いたカードを持ち出し袋に入れ、支援物資をそのまま食べさせないで済むよう、その子の分は必ず自宅で確保しておきます。
あんよ期(1歳〜)
歩き出すと、必要なものが「食べる」から「守る・過ごす」へ広がります。まず靴。避難のときに裸足では動けませんし、避難所の床でも足を守れます。サイズが合っている靴を玄関に置いておくのが、この時期いちばん確実な備えです。
食べるものは、幼児食やレトルトのごはん、パンの缶詰など大人の備蓄と共用できるものが増えてきます。塩分の強い大人向け非常食ばかりにならないよう、薄味のものを何食分か分けておきます。
それから、退屈をしのぐもの。小さな絵本、シールブック、お気に入りのぬいぐるみ。避難所で泣き止まないことを親が気に病むケースは多く、静かに遊べる道具は本人のためでもあり、付き添う大人のためでもあります。

抱っこひもでの避難のしかた
避難のときは、ベビーカーではなく抱っこひもです。ベビーカーは段差や割れたガラス、混雑した道では進めなくなり、押している間は両手がふさがります。抱っこひもなら、両手が空いて荷物を持てますし、階段も通れます。
ですから、抱っこひもの定位置は寝室やクローゼットの奥ではなく、玄関か持ち出し袋のすぐそばにしてください。夜中に地震が起きたとき、暗い部屋で抱っこひもを探すのは現実的ではありません。使い慣れた抱っこひもをそのまま防災用に置いておくのがいちばんですが、買い替えのタイミングで古いほうを玄関用に回すのも手です。おんぶができるタイプだと、赤ちゃんを背負ったまま作業ができます。
抱っこひもが手元にないときのために、大判のストールやさらしで代用する巻き方を一度練習しておくと安心材料になります。動画を見て一度やってみるだけでも、記憶に残り方がまるで違います。
なお、いつどこへ避難するかという判断そのものは、お住まいの自治体のハザードマップと避難情報に従ってください。ここでお伝えできるのは、動けるようにしておく準備までです。
ローリングストックで回す:サイズアウト対策
赤ちゃんの備えが大人と決定的に違うのは、放っておくと使えなくなる点です。賞味期限が切れる前に、その子が育ってしまう。Sサイズのおむつを大量に買った翌月にМサイズへ、というのはよくある話です。
対策はひとつ、備蓄を止めずに回すことです。買い置きを日常の中で使い、使ったぶんを買い足す。いわゆるローリングストックですが、赤ちゃん用品では次の二点を足します。
- おむつは常に1サイズ上を1袋、先に買っておく。今のサイズがきつくなってきたら、備蓄用の袋を日常使いに下ろし、さらに上のサイズを1袋買う
- ミルク・離乳食は月に一度、いちばん古いものから普段の授乳・食事に使う。液体ミルクは外出時に1本使えば、味に慣れさせておく練習にもなる
点検のタイミングは、月に一度の予防接種や健診の前後に合わせると忘れません。カレンダーに「おむつサイズ確認」とだけ書いておけば十分です。回し方の基本についてはローリングストックの始め方で詳しくまとめていますので、あわせてご覧ください。
ここまで読んで、全部そろえなければと気負う必要はありません。ミルクとおむつと防臭袋、この三つが2週間分あれば、赤ちゃんのいる家庭の備えは合格点です。残りは月齢が変わるたび、少しずつで構いません。
よくある質問
液体ミルクの賞味期限は短い?
以前より長くなっています。明治「ほほえみ らくらくミルク」は2021年4月製造分から賞味期限が製造日より18か月に延長されました。江崎グリコ「アイクレオ 赤ちゃんミルク」は製造日より9か月でしたが、2025年11月製造分から10か月に延長されています。粉ミルク(未開封)は1年半程度が一般的で、液体ミルクだけが極端に短いわけではありません。
ただし店頭に並んでいる時点で製造から数か月経っていることもあり、手元での残り期間は表示より短くなります。買うときにパッケージの期限を見て、期限の遠いものを備蓄用に回してください(2026年8月時点の情報です。仕様は変わることがあります)。
避難所での授乳・おむつ替えはどうする?
授乳スペースや更衣室があるかどうかは、避難所ごとに事情が異なります。用意されていることもあれば、間仕切りだけということもあります。ですから、自前で人目を遮れるものを持っておきます。授乳ケープ、大判のバスタオル、レジャーシート。ワンタッチで広がる小型のポップアップテントを持ち込めれば、着替えやおむつ替えの場所としても使えます。
おむつ替えは、レジャーシートや使い捨てのおむつ替えシートを敷いて行い、使用済みのものは防臭袋に入れて口を縛り、指定された場所へ。周囲への配慮という意味でも、防臭袋の有無で気の使い方がまるで変わります。お住まいの地域の避難所に、乳幼児向けの設備や福祉避難所があるかどうかは、自治体の防災担当窓口や防災マップで事前に確認しておくと動きやすくなります。
子ども全般の持ち出し品については子どもの防災グッズもあわせてご覧ください。製品の仕様や価格は変わりますので、購入前に各メーカーの公式サイトで最新の情報をご確認ください。
