台風が近づくたびに「そろそろ何かしなきゃ」と思いながら、結局その日の夜に慌ててしまう——という声をよく聞きます。台風は地震と違って、来ることが数日前から分かる災害です。だからこそ、やることを日程で割り振ってしまえば、当日は家の中で静かに過ごすだけで済みます。この記事では、上陸3日前・前日・当日の3段階で、ふつうの家庭がやっておくことを順番に整理しました。避難するかどうかの判断の目安と、台風が過ぎたあとの点検までまとめています。
台風の備えは「上陸3日前」から始めると間に合う
台風の進路予報は、5日先までの予報円として気象庁から発表されます。予報円は先の日ほど大きく、3日前の時点では「上陸するかどうか」までは決まりません。それでも、「自分の住む地域が予報円に入っているか」は分かります。予報円に入った時点で準備を始める、というのが一番シンプルな線引きです。
3日前から動くことには理由があります。ホームセンターの養生テープや電池、スーパーの水やパンは、上陸の1〜2日前になると一気に品薄になります。前日に買いに走ると、必要なものが手に入らないうえ、その混雑が地域全体の買い占めにつながります。日程を前倒しするだけで、自分も周囲も落ち着いて動けます。
やることを大きく分けると、次の3つです。
| 時期 | やること | 目安の時間 |
|---|---|---|
| 3日前まで | 家の外まわりの点検・片づけ、買い足し | 1〜2時間 |
| 前日 | 停電・断水への備え(充電・水・食料) | 1時間程度 |
| 当日 | 外に出ない・情報を取る・窓から離れる | — |
外の作業は3日前までに終わらせる。前日以降は家の中の作業だけにする、と決めておくと迷いません。

【3日前まで】家の外まわりを点検する
台風で家に被害が出るきっかけの多くは、飛んできたものが窓や外壁に当たることです。その「飛んでくるもの」は、実は近所の家のベランダや庭に置いてあったものだったりします。外の作業は、風が出てからでは危険で手が回りません。まだ晴れているうちに片づけるのが鉄則です。
ベランダ・庭の飛ばされそうなものを片づける
片づける対象は「風速20m/s の風で動くかどうか」で考えると分かりやすくなります。強い台風では最大瞬間風速が50m/s を超えることもあり、これは走行中の車が横転しうる強さです。ふだん「重いから大丈夫」と思っているものも、まず室内か物置に入れてください。
優先して片づけたいのは、植木鉢とプランター、物干し竿と洗濯ばさみ、サンダルやスリッパ、ゴミ箱、自転車、レジャー用の折りたたみ椅子やテーブル、そして子ども用の遊具です。物干し竿は必ず外して床に寝かせるか室内へ。竿受けに載せたままロープで縛るやり方は、竿ごと外れて飛ぶことがあります。自転車は、倒しておくだけでも被害がぐっと減ります。
エアコンの室外機は、通常はそのままで問題ありません。ただし置き台に載せているだけの場合は、固定金具やベルトで台に留めておきます。
雨どい・排水溝・側溝の掃除
見落とされがちですが、効果が大きいのが排水まわりの掃除です。雨どいが落ち葉で詰まっていると、雨水が溢れて外壁を伝い、思わぬところから浸水します。ベランダの排水口も同じで、詰まったまま激しい雨が降ると、ベランダが水たまりになって室内へ流れ込みます。
やることは単純で、雨どいの入口とベランダの排水口からゴミを取り除き、水を流して抜けを確かめるだけです。家の前の側溝に落ち葉が溜まっている場合も、手の届く範囲でさらっておきます。掃除にかかるのは15分程度で、効果は非常に大きい作業です。屋根に上る必要はありません。高所の雨どいは無理をせず、地上から見て明らかに草が生えている場合だけ業者に相談します。
窓と雨戸の点検:養生テープの効果と限界
雨戸やシャッターがある家は、それを閉めるのが最も確実な窓対策です。ふだん動かしていないと、いざというときにレールにゴミが詰まって動かないことがあるので、3日前に一度開け閉めして確かめておきます。
雨戸がない窓について、よく話題になるのが養生テープです。ここは正確に理解しておいたほうがいい部分で、養生テープを貼ってもガラスそのものは強くなりません。テープの役割は、割れたときにガラス片が飛び散る範囲を減らすことです。飛来物がぶつかれば、テープを貼った窓も割れます。
それでも貼る価値はあります。室内に鋭い破片が散乱するのと、テープに引っかかってその場に留まるのとでは、その後の身の安全がまるで違うからです。貼るときは窓全体に米印か格子状に、ガラス面をなるべく覆うように貼ります。さらに効果を上げたい場合は、室内側から段ボールを当ててテープで留めると、破片を受け止める層になります。カーテン、特に厚手のドレープカーテンを閉めておくことも、そのまま飛散対策になります。
台風が過ぎたら早めに剥がします。長く貼ったままにすると粘着剤が固まり、ガラスやサッシに残って取れにくくなります。
「台風のたびに毎回貼るのが面倒」という場合は、飛散防止フィルムを平時に貼っておくほうが手間もコストも結果的に軽くなります。

【前日】停電と断水に備える
台風で最も高い確率で起きるのは、家が壊れることではなく停電と断水です。ここからは家の中の作業なので、雨が降り始めてからでも進められます。
スマホ本体・モバイルバッテリー・ノートPC・ポータブル電源を、寝る前までに満充電にします。
生活用水として、浴槽に八分目まで水をためます。
ペットボトルの残量を確認し、足りなければ空のペットボトルやポリタンクに水道水を詰めます。
設定を「強」にし、空いたスペースに保冷剤や水を入れたペットボトルを詰めます。
懐中電灯・ランタンを、暗くなる前に各部屋とトイレに置きます。
スマホと電源の充電
停電時のスマホは、情報を得る手段であり連絡手段でもあります。ただし、電波塔の非常用電源には限りがあるため、停電が長引けば圏外になることもあります。充電を残しておく意味は、通信が復旧したときにすぐ使えるようにするためでもあります。
モバイルバッテリーは、スマホ2〜3回分にあたる10,000mAh 前後のものが1台あれば、家族2人で1日はしのげます。停電が数日に及ぶ地域では、これでは足りません。冷蔵庫や扇風機まで動かしたい場合は、ポータブル電源の出番になります。停電時にまず何を確認して、どう行動するかは停電対策の記事にまとめています。ポータブル電源の容量の選び方や、価格帯ごとの違いはポータブル電源のおすすめ記事で整理しました。
発電機やカセットガス式の発電装置を、屋内やベランダ、玄関先で動かしてはいけません。一酸化炭素中毒による死亡事故が毎年起きています。使う場合は屋外の風通しのよい場所に限ります。
水のくみ置きと生活用水
断水で困るのは、飲み水よりむしろトイレです。一般的な浴槽は満水で約200リットル、八分目でも150リットル以上たまります。バケツ1杯(約8リットル)で1回分の洗浄水になるため、これだけで数日のトイレをまかなえます。
ただし、注意点が二つあります。追い焚き機能つきの給湯器は、水位が循環口より下がっている状態で運転すると故障の原因になります。くみ置き中は追い焚きを使わないでください。もう一つは、小さなお子さんやペットがいる家庭での転落事故です。我が家も猫がいるので、水をためる日は浴室の扉を必ず閉めています。
飲み水は、1人1日3リットル×3日分が目安です。大人2人なら18リットル、2リットルのペットボトルで9本になります。台風の前日に慌てて買うのではなく、ふだんから箱で置いておくのが結局いちばん楽です。水の備蓄量の考え方と保管場所については水の備蓄の記事で詳しく書いています。
食料の準備と冷蔵庫の設定
停電中は火が使えないとは限りません。カセットコンロがあれば温かいものが作れますし、都市ガスやプロパンが止まっていなければ調理も可能です。逆にIHコンロの家庭は、停電すると一切の加熱ができなくなるため、カセットコンロとボンベを用意しておく価値が高くなります。
食べるものは、ふだん食べているレトルトカレー、パックご飯、缶詰、乾麺、菓子パン、果物の缶詰あたりで十分です。非常食を特別に買い足すより、いつも食べているものを少し多めに買っておいて、古いものから使っていくほうが無駄が出ません。この回し方はローリングストックの記事にまとめました。
冷蔵庫は、停電の数時間前から設定を「強」にして庫内をよく冷やし、冷凍庫の隙間に保冷剤や凍らせたペットボトルを詰めておきます。停電したら扉を開けないことが最優先で、開けなければ冷蔵室は2〜3時間程度、冷凍室はそれよりかなり長く冷えが保たれます。凍らせたペットボトルは、溶ければそのまま飲み水になります。
【当日】外に出ない:過ごし方と情報のとり方
台風が最接近する日にやることは、実はほとんどありません。「外に出ない」ことが、当日の最大の防災行動です。会社や学校の判断を待つのではなく、暴風警報が出ている時間帯の外出は避けるという前提で予定を組み替えます。用水路や川の様子を見に行く、屋根の様子を確かめに上る、といった行動は毎年犠牲者を出しています。
警戒レベルの見方
避難に関する情報は、2026年5月末から新しい体系での運用が始まりました。大きな変更は、情報の名前そのものに警戒レベルの数字が入るようになったことと、警戒レベル4にあたる「危険警報」が新設されたことです。「レベル3大雨警報」「レベル4危険警報」のように読めるので、これまでより格段に分かりやすくなっています。
| 警戒レベル | とるべき行動 |
|---|---|
| レベル3 | 高齢者・障害のある方・小さな子どもがいる世帯は避難を始める |
| レベル4 | 危険な場所から全員避難する |
| レベル5 | すでに災害が発生・切迫。命を守る最善の行動をとる |
覚えておきたいのは、レベル5を待ってはいけないということです。レベル5は「安全に避難できる状況ではなくなった」という知らせであって、避難の合図ではありません。避難するなら、レベル4が出た時点、できればレベル3の段階で動きます。レベルごとの意味と、市町村からの避難情報との対応は警戒レベルの記事で詳しく解説しています。
情報の取り方は、気象庁の防災情報のページと、お住まいの市区町村の公式サイト・防災アプリを軸にします。SNSは速報性がある一方で、古い災害の映像が現在のものとして拡散されることが繰り返し起きています。判断の根拠にするのは公的機関の発表に限る、と決めておいてください。
窓から離れる/浸水しはじめたときの垂直避難
暴風のピークが来たら、窓のない部屋か、窓から離れた場所で過ごします。廊下、浴室、玄関ホール、家の中心にある部屋などが該当します。雨戸のない部屋のカーテンは閉め切ったままにしてください。「風で窓がしなるのを見に行く」のは、最も危険な行動のひとつです。
浸水が始まった場合、外に出て避難所へ向かうほうが危険になることがあります。水深が膝あたり(およそ50cm)を超えると、大人でも歩行が難しくなり、蓋の外れたマンホールや側溝の位置も見えなくなります。そのときは家の2階以上、それも斜面や川から遠い側の部屋へ上がる「垂直避難」に切り替えます。平屋の場合は、少しでも高い場所と、外に出られる窓の近くを選びます。
避難するかどうかはどう判断する?
避難するかどうかで迷うのは当然です。避難所は落ち着かないし、ペットがいれば連れて行けるかも気がかりです。判断の軸は、実はシンプルです。「自宅が危険な場所にあるかどうか」——これに尽きます。
危険な場所とは、ハザードマップで浸水想定区域・土砂災害警戒区域・急傾斜地崩壊危険箇所に指定されている場所を指します。ここに自宅が入っていれば、避難情報が出た段階で家を出る前提で考えます。逆に、どの区域にも入っておらず、建物に不安がなく、備蓄が足りているなら、在宅避難のほうが安全で負担も軽くなります。マンションの中層階以上で浸水想定の外にある住戸などは、その典型です。
この判断は、台風が来てからでは間に合いません。晴れた日にハザードマップを開いて、自宅と、勤務先と、家族が通う場所を確認しておくところから始めます。ハザードマップの見方の記事と、避難するかどうかの判断基準の記事を用意しているので、そちらも合わせてご覧ください。
高齢のご家族がいる場合は、判断をさらに一段早めます。移動に時間がかかるうえ、雨風が強まってからでは本人も付き添う人も動けなくなります。レベル3の情報が出た時点で動く、と家族の間で決めておくだけで、当日の迷いが消えます。
台風が過ぎたあとの点検と注意
台風が去った直後は、気持ちが緩みやすい時間帯です。ここで事故が起きます。風が収まったからといってすぐに屋根や雨どいを確かめようとするのは避けてください。屋根からの転落は、台風後の負傷でとくに多いものです。高所の確認は、地上から見上げるか、専門業者に任せます。
安全な範囲での点検は、次のようなところです。ベランダや庭に飛んできたものがないか、割れたガラス片が落ちていないか。外壁や窓まわりに雨染みが出ていないか。雨どいから水が正常に流れているか。それから、家の中では天井や壁のシミ、床の濡れを確認します。屋根や外壁に被害が見つかった場合は、修理の前に必ず写真を撮っておきます。火災保険の風災補償で修理費が出る場合があり、被害状況の記録が申請の根拠になります。
台風後には、屋根の点検を持ちかける訪問業者が増えます。「無料で見る」と言われて上らせ、高額な工事契約を結ばされる被害が繰り返し報告されています。その場で契約せず、日ごろから付き合いのある業者か、自治体の相談窓口を通すようにしてください。
断水が復旧した直後は、水道管に溜まった濁り水が出ることがあります。しばらく蛇口を開けて、透明になってから使います。停電が復旧するときは、通電火災に注意が必要です。倒れた電気ストーブや、水に濡れた家電が通電した瞬間に発火することがあります。停電中にブレーカーを落としておき、復旧後は家電の状態を目で確かめてから戻します。
ここまで一通り書いてきましたが、すべてを完璧にこなす必要はありません。外まわりを片づけて、スマホを充電して、浴槽に水をためる。この3つだけでも、台風の夜の過ごしやすさはまるで違います。残りは、次の台風のときに一つずつ足していけば十分です。
よくある質問
台風の備えで一番大切なことは?
自宅が危険な場所にあるかどうかを、事前に知っておくことです。備蓄も窓対策も大切ですが、浸水想定区域や土砂災害警戒区域に自宅がある場合は、そもそも家にとどまらない判断が必要になります。逆に、その区域の外にあると分かっていれば、余計な不安に振り回されずに在宅避難を選べます。ハザードマップの確認は無料で、10分もかかりません。
食料は何をどれだけ備えればいい?
大人1人あたり3日分を目安に、ふだん食べているものを少し多めに置いておく形で足ります。レトルトご飯、缶詰、レトルトカレーやスープ、乾麺、菓子類、それに飲み水を1人1日3リットル。加熱手段としてカセットコンロとボンベがあると、温かいものが食べられます。専用の非常食を買い込むより、日常の買い置きを少し厚めにして古いものから消費していくほうが、費用も無駄も少なくなります。持病がある方は、常備薬の残量も一緒に確かめておいてください。
マンションの上の階でも浸水対策は必要?
住戸そのものが浸水する心配は基本的にありません。ただし、別の問題があります。多くのマンションでは、給水ポンプや受電設備が地下や1階に設置されているため、そこが浸水すると建物全体で断水し、エレベーターも止まります。上の階ほど、断水したときの水の運搬が重労働になります。上層階の方こそ、飲み水とトイレ用の生活用水を多めに置いておく意味があります。また、暴風による窓ガラスの被害は、高層階のほうがむしろ受けやすくなります。
なお、この記事に書いた警戒レベルの体系や避難に関する情報は、気象庁および各自治体の発表が一次情報です。お住まいの地域の具体的な避難場所や避難情報は、市区町村の公式サイトでご確認ください。
