「備蓄しなきゃ」と思って非常食セットを買ったものの、押し入れの奥で期限切れ——という経験、私も一度あります。それを避けるための考え方がローリングストックです。この記事では、ローリングストックの仕組みと、ふつうの備蓄との違い、何日分を目安にすればいいのか、そして今日レトルト3つから始める方法までをまとめます。
ローリングストックとは:「食べながら備える」こと
ローリングストックとは、ふだん食べている食品を少し多めに買い置きし、古いものから食べて、食べた分だけ買い足す備え方です。「ローリング(回す)」の名のとおり、家の中の食品が少しずつ入れ替わりながら、常に一定量が手元にある状態をつくります。
農林水産省の「災害時に備えた食品ストックガイド」でも、家庭備蓄を続けるための方法としてこのやり方が案内されています。ポイントは、備蓄のための特別な買い物をしないこと。いつものスーパーの買い物の延長線上に、備蓄が積み上がっていきます。
ですから、ローリングストックは「防災グッズ」というより家事のやり方に近いものです。買い方と置き方を少し変えるだけで成立します。
ふつうの備蓄と何が違う?
非常食を箱で買って押し入れにしまうやり方は、いざというときの安心感が大きい反面、期限の管理がすべて自分の記憶頼りになります。5年保存のアルファ米やパンの缶詰は確かに長持ちしますが、5年後にきちんと入れ替えられる家庭は多くありません。しかも、いざ食べる段になって「家族の口に合わなかった」と気づくこともあります。
ローリングストックは逆で、備蓄品を日常の食卓で消費し続けるため、期限切れも味の不一致もふだんのうちに分かります。棚の奥ではなく手前に置くのが基本です。
どちらが正しいという話ではなく、日常寄りの備えをローリングストックで持ち、その上に長期保存食を少し足すのが扱いやすい形です。まずは回る仕組みをつくるところからで十分です。

基本サイクルは3つ:買う→食べる→買い足す
やることは3つしかありません。むずかしい記録も専用アプリも要りません。
ふだん買うレトルトや缶詰、乾麺を、いつもより1〜2個多くカゴに入れます。新しく買った分は棚の奥へ。
週に1回程度、手前にある古いものを日常の食事に使います。「レトルトの日」を決めてしまうと迷いません。
食べたら、次の買い物でその分を補充します。増やすのではなく、減った分を戻すだけです。
回し方の要は置き方にあります。新しいものを奥、古いものを手前にする——このひとつのルールだけで、賞味期限のチェックはほぼ自動化されます。スーパーの陳列と同じ考え方です。
棚の手前から取る習慣がつけば、期限管理のためのリスト作りは要りません。
何日分を目安にする?
農林水産省のガイドは、家庭備蓄の目安として最低3日分、できれば1週間分を挙げています。過去の災害では、ライフラインの復旧に1週間以上かかった例や、物流が止まって店頭から食品が消えた例があるためです。
水は1人1日3リットルが目安です。飲用だけでなく調理に使う分を含めた量で、2人暮らしなら1週間で42リットル、2リットルのペットボトルで21本になります。いきなりこの量は置き場所に困りますから、まずは3日分——2人で18リットル、9本から始めれば十分です。
食料は最低3日分・目標1週間分、水は1人1日3リットル。この2つの数字だけ覚えておけば足ります。
なお、この日数はあくまで家庭の目安です。地域のハザードマップや自治体の推奨量は、お住まいの市区町村の防災ページで確認してください。
ペットのフードと猫砂、高齢の家族の常備薬や介護用品も、同じ考え方で回せます。
我が家では黒猫のモカのカリカリを常に未開封1袋だけ多めに持ち、開封のたびに買い足しています。

向いている食品・向かない食品
ローリングストックに向くのは、常温で保存できて、ふだんの食卓にも無理なく登場する食品です。逆に、消費のペースが遅いものや、家族があまり食べないものを選ぶと、結局回らずに期限切れを迎えます。
| 向いている | 向かない・注意が要る |
|---|---|
| レトルトカレー・丼の素・パスタソース | 好みでない味の非常食セット |
| 缶詰(サバ・ツナ・トマト・果物) | 要冷蔵・冷凍の食品(停電で失う) |
| 乾麺・パックご飯・シリアル | 調理に大量の水が必要な乾物 |
| 野菜ジュース・スープ・缶詰のパン | 開封後すぐ使い切れない大容量品 |
意外な盲点は調味料です。塩や砂糖、乾燥わかめ、缶詰の汁を活かせる顆粒だしがあると、非常時でも味の変化がつけられます。少量ずつ多めに持っておくと、日常でも切らしません。
どの商品をどれだけ持つかを具体的に見たい方は、ローリングストックにおすすめの食品で品目ごとに整理しています。
今日から始める最小スタート:レトルト3つから
最初から1週間分を揃えようとすると、置き場所も出費も一気に膨らんで、そこで止まります。私が読者にお伝えしているのは、次の買い物でレトルト食品を3つ多めに買う、それだけです。金額にして500〜900円程度、棚の一段の半分にも満たない量です。
3つ買ったら、翌週にそのうち1つを夕食で食べます。食べたら1つ買い足す。これで、あなたの家はもうローリングストックが回っている状態です。あとは慣れてきたら、缶詰、パックご飯、水、と少しずつ品目を増やしていけば、3日分は自然に届きます。
買う物・置き場所・回すペースまでひととおり決めたい方は、ローリングストックの始め方ガイドに手順をまとめました。
完璧な備蓄リストを作らなくても、レトルト3つで最初の一歩は済みます。ここまでできていれば、上出来です。
よくある質問
ローリングストック法にデメリットはある?
あります。ひとつは、常温保存の食品が中心になるため、長期保存食に比べて期限が短く、消費と補充の手間が続くこと。もうひとつは、置き場所が日常の収納を圧迫することです。キッチンの一段を「備蓄の棚」と決めてしまうと、増やしすぎの歯止めにもなります。
また、レトルトや缶詰に偏ると塩分が多くなりがちです。野菜ジュースや乾燥野菜を混ぜておくと、非常時の食事のバランスが取りやすくなります。
一人暮らしでもできる?
できます。むしろ一人暮らしのほうが量が少なく、始めやすいやり方です。1人3日分なら、パックご飯3個、レトルト3個、缶詰2〜3個、水2リットル×5本ほど。段ボール1箱に収まります。自炊をあまりしない方は、そのまま食べられる缶詰やシリアルの比率を上げておくと、ふだんの朝食でも回せます。
やめてしまう人が多いのはなぜ?
多いのは「食べるタイミングを決めていない」ケースです。買い足しだけが続いて棚があふれ、管理しきれずに止まってしまいます。曜日を決めて消費するか、月末の残り物デーに充てるか、消費の側にルールを置くと続きます。次に多いのが、好みでない食品を備蓄用として買ってしまうパターンです。食べたくないものは、いつまでも棚に残ります。
続かなかった理由と立て直し方は、ローリングストックをやめた人の理由で詳しく書いています。
備蓄の日数や品目の考え方は、農林水産省の災害時に備えた食品ストックガイドを参照しています。お住まいの地域で必要な量や避難の行動については、自治体の防災ページと気象庁の発表をご確認ください。
