家庭の防災を見直すとき、意外と後回しになるのが「子どもが家にも学校にもいない時間」の備えです。登下校の30分前後は、親も先生もそばにいない、いわば空白の時間帯。この記事では、通学中に災害が起きた前提で、子どもと決めておく約束ごと、持たせるものの選び方、学校の引き渡しルールの確認、そして連絡がつかないときの決めごとまでを、優先順に整理します。
通学中の被災は「親がそばにいない」前提で備える
家の中の備えは、家具の固定や備蓄など「モノ」で解決できる部分が大きいものです。けれど通学中の備えは違います。その瞬間、判断するのは子ども本人です。だからこそ、備えの中身は道具ではなく事前に交わした約束と、その練習が中心になります。
2018年6月の大阪府北部地震は、平日の午前8時前という登校時間帯に発生しました。この地震をきっかけに、登下校時の連絡手段について学校のルールが見直された地域も多く、文部科学省も2020年7月に、小学校での携帯電話の持ち込みを原則禁止としつつ、遠距離通学や登下校時の安全確保といった事情がある場合は例外的に認めることを示しています。つまり、通学中の被災は制度の側でも「あり得ること」として想定されている、ということです。
備えの順番は、①約束ごと → ②持たせるもの → ③学校ルールの確認 です。道具から入りたくなりますが、GPSを持たせても、逃げる先が決まっていなければ子どもは動けません。まず親子で話す時間を1回とるところからで十分です。

子どもと決めておく約束ごと3つ
約束は多いほど良いわけではありません。とっさの場面で思い出せるのは、せいぜい3つです。我が家では甥の入学のときに一緒に決めましたが、紙に書いて冷蔵庫に貼り、年に一度読み直すだけでも記憶の残り方が変わりました。
その場でしゃがむ・かばんで頭を守る
地震のとき、子どもがいちばんやりがちなのは「走って移動しようとすること」です。揺れている最中の移動は、転倒とガラス・看板の落下という二重の危険を招きます。最初の約束は、揺れを感じたらその場でしゃがみ、ランドセルや手さげで頭を守り、揺れが収まるまで動かないこと。ランドセルは背負ったまま前かがみになるより、外して頭に乗せるほうが後頭部から首を覆えます。ただし外す動作に手間取るくらいなら、背負ったまましゃがんで両手で頭を抱えるだけでかまいません。
このとき離れるべき場所も一緒に伝えます。ブロック塀、自動販売機、電柱、店舗のガラス面、古い瓦屋根の家。通学路にそういう場所があるなら、実際に歩きながら「ここは危ないから、揺れたら道の真ん中側へ」と指差しで確認しておくのが確実です。
どこへ逃げるか:通学路を一緒に歩いて決める
揺れが収まったあと、子どもが迷うのは「家に戻るのか、学校へ行くのか」です。ここを曖昧にしたまま「近くの安全な場所へ」と伝えても、子どもには判断できません。
おすすめは、通学路を家から学校まで一緒に歩き、おおよそ中間地点を境に、家寄りなら家へ・学校寄りなら学校へと決めてしまう方法です。境目になる目印(信号、コンビニ、橋など)を一つ決めておけば、子どもは自分の位置で判断できます。あわせて、途中にある広い公園や指定緊急避難場所を1〜2か所、「そこへ行けば大人がいる場所」として覚えさせます。
通学路歩きは1回30分ほど。春の新学期か、9月の防災の日あたりに合わせると習慣にしやすいです。
学校に留まるか・誰と帰るか
3つめは、学校に着いたあと・在校中に被災した場合の約束です。多くの小中学校では、震度いくつ以上なら児童を学校に留め置き、保護者への引き渡しまで下校させない、という基準を定めています。子どもには「先生が帰っていいと言うまで、勝手に帰らない」とはっきり伝えてください。友達に誘われて一緒に帰ってしまうと、学校側の名簿確認が崩れ、親も居場所を追えなくなります。
逆に、迎えに行く人が親以外になる可能性があるなら、その人の名前を子どもにも学校にも先に伝えておきます。祖父母や近所の方に頼む場合、学校の引き渡しカードに登録がなければ引き渡してもらえません。
持たせるもの:GPS・キッズケータイ・ホイッスル
約束が決まったら、次は道具です。通学時の被災に効くものは、実はそれほど多くありません。持ち物を増やすほど管理が続かなくなるので、ここは絞り込みます。
| 持ち物 | できること | 弱点 |
|---|---|---|
| GPS端末 | 位置がわかる。操作不要で電源が入っていれば動く | 通話できない。通信混雑・停電で更新が遅れる |
| キッズケータイ | 通話・メッセージ・位置確認。伝言ダイヤルも使える | 学校の許可が要ることが多い。充電切れに弱い |
| ホイッスル | 電源不要。声が出せない状況でも居場所を知らせられる | 届く範囲が限られる。遊びで吹かせない約束が要る |
GPS端末とキッズケータイは、どちらか一方で足りることがほとんどです。低学年で操作が不安なうちはGPS、自分で連絡させたい年齢になったらキッズケータイ、という切り替え方が素直だと思います。
災害時は通信が混み合い、位置情報の更新が数十分単位で遅れることがあります。GPSは「必ず今いる場所がわかる道具」ではなく「最後にいた場所の手がかり」と考えておくと、慌てずに済みます。
ホイッスルは、ランドセルの肩ベルトに、子どもが下を向かずに口へ持っていける長さで付けます。首から下げる形は、遊具や自転車に引っかかる事故の心配があるため避けてください。学校によってはキーホルダー類の装着に決まりがあるので、そこは確認してからにします。
ランドセルに入れておく小物(絆創膏、飲料、簡易トイレなど)の選び方は子ども用の防災グッズをまとめた記事で詳しく扱っています。通学時に限れば、ここに挙げた3点+水筒が中身の中心になります。

学校の引き渡しルールを確認しておく
家庭側の準備がどれだけ整っていても、学校のルールと噛み合っていなければ意味がありません。年度はじめに配られるプリントに書いてあることが多いので、探すのは1回で済みます。
確認したいのは次の点です。引き渡しになる基準(震度いくつ以上か、警報の種類)、引き渡し場所(教室か、校庭か、体育館か)、引き取り者として登録できる人の範囲、そして保護者が到着できない場合に学校が何時まで子どもを預かるのか。最後の一つは意外と見落とされますが、共働き家庭では最重要です。
引き渡し訓練は、多くの学校で年1回、9月前後に実施されます。当日は保護者が担任にフルネームを名乗り、名簿と照合してから子どもを引き渡すという手順を踏みます。行ける年は参加して、実際の動線と所要時間を体で覚えておくと、本番で迷いません。
放課後の預け先がある場合、そこの引き渡しルールも同じように確認します。学校から学童への移動中が抜けやすい時間帯です。
連絡がつかないときの決めごと
大きな地震のあとは、通話がつながりにくくなります。親も子も、つながらない電話をかけ続けて時間を失うのがいちばんもったいない。だから、つながらなかったときにどうするかを、先に決めておく ことが備えの本体です。
柱は二つあります。一つは、災害用伝言ダイヤル「171」やweb171に伝言を残すこと。番号は自宅の固定電話番号など、家族全員が同じ番号を使うと決めておきます。171は毎月1日・15日のほか、正月三が日、防災週間(8月30日〜9月5日)、防災とボランティア週間(1月15日〜21日)に体験利用ができます。9月1日は体験利用日と防災週間が重なるので、親子で一度録音・再生を試すのに向いています。使い方の手順は災害用伝言ダイヤル171の解説記事にまとめました。
もう一つは、遠方に住む親戚を「中継役」に決めておくことです。被災地内どうしの通話は混み合いますが、地域外への通話は比較的つながることがあります。子どもには、その一件だけを暗記させるか、連絡先を書いたカードを持たせます。
そして最後に、電話が一切使えなかった場合の集合場所です。「連絡がつかないときは、○○公園で待つ」「家に誰もいなければ玄関前で待たず、△△さんの家へ」といった具合に、通信に頼らない一手を必ず一つ用意しておきます。
ここまで揃えば、通学時の備えとしては十分です。あとは年に一度、進級のタイミングで約束を読み直せば、それで維持できます。
よくある質問
通学時の備えについて、保護者から出やすい疑問を二つ取り上げます。
引き渡し基準や避難場所の指定は自治体・学校ごとに違います。最終的な運用は、通っている学校のマニュアルと自治体の公式情報でご確認ください。
