防災用にポータブル電源を買うべきか、それとも「いらない」のか。10万円前後の買い物になることも多く、簡単には決められませんよね。この記事では、いらないと言われる理由をいったん受け止めたうえで、停電で本当に困ることを時間の経過ごとに整理し、あったほうがいい家庭・なくても回る家庭の分かれ目をお伝えします。買わずに備える組み合わせと、迷ったときの試し方まで扱います。
「いらない」と言われる理由を先に整理する
まず、否定的な意見のほうが的を射ている場面は確かにあります。防災グッズの中でポータブル電源は最も高額な部類で、しかも使わないまま何年も置いておく可能性が高いものです。ここを直視しないまま「防災だから買っておく」と決めると、たいてい押し入れの奥で眠ります。
高い・重い・出番が少ない
価格は容量でほぼ決まります。執筆時点(2026年8月)の目安として、スマホやランタン中心の500Wh前後で3〜5万円台、冷蔵庫も動かせる1000Wh級で8〜15万円あたりが中心価格帯です。セールの時期には大きく下がることもあるので、金額そのものは変動する前提で見てください。
重さも見落とされがちです。1000Wh級は本体だけで10kg前後あり、女性が階段を持って上がるのは正直きついサイズです。避難所へ持って行く道具ではなく、自宅にとどまる「在宅避難」のための道具だと考えたほうが実態に合います。
そして出番の少なさ。日本の電力供給は安定していて、大きな災害がなければ数時間を超える停電はめったに起きません。キャンプや車中泊で普段から使う人ならいいのですが、防災のためだけに買うと「10年に一度使うかどうか」の道具になります。
モバイルバッテリーで足りるという意見
これも一理あります。停電で最初に困るのは明かりと情報、つまりスマホの電池です。10000mAhのモバイルバッテリーは電力量にすると37Wh程度で、スマホ2回分ほど充電できます。2個持っていれば、家族2人が数日スマホを使う分にはだいたい足ります。
ただしモバイルバッテリーはUSB出力しかありません。コンセントに挿す家電——冷蔵庫、扇風機、電気毛布、ファンヒーターの点火部——は動かせません。ここが分かれ目になります。

実際の停電で困ることを時間別に考える
必要かどうかは「何時間の停電を想定するか」でまったく変わります。時間の経過で困りごとがどう変わるかを並べてみます。
| 停電の長さ | 主に困ること | 必要な電気 |
|---|---|---|
| 〜3時間 | 明かり、情報 | 懐中電灯・ラジオ・スマホで足りる |
| 半日〜1日 | スマホの残量、冷蔵庫 | モバイルバッテリーで持ちこたえる |
| 1〜3日 | 冷蔵庫の中身、夏の暑さ・冬の寒さ | コンセント出力がほしくなる |
| 3日以上 | 生活全般、在宅ワーク | 充電手段(ソーラー等)まで必要 |
冷蔵庫は、扉を開けなければ数時間は庫内の冷たさが保たれます。慌てて中身を確認するより、開けない時間を作るほうが効きます。それでも半日を超えると保冷剤代わりの冷凍品が溶け始め、1日を過ぎると生鮮品の傷みが現実の問題になります。
家庭用冷蔵庫の消費電力量は1日あたり750Wh前後が目安なので、冷蔵庫を丸1日動かし続けたいなら1000Wh級が必要です。変換のロスがあるため、実際に使えるのは表示容量の8割程度と考えてください。「冷蔵庫を守りたい」なら1000Wh級、そうでないなら小型で十分という線引きになります。
では停電はどのくらい続くのか。東日本大震災では、発災から3日で約8割、8日で約94%の停電が解消したと経済産業省の資料に整理されています。逆に言えば、最初の3日をどう乗り切るかが山場です。
いらない家庭・あったほうがいい家庭の分かれ目
同じ「停電」でも、家の設備と家族構成で深刻さがまるで違います。判断を分けるのは、電気が止まったときに代わりの手段があるかどうか、この一点です。
あったほうがいい:オール電化・医療機器・乳幼児・在宅ワーク
オール電化住宅は、停電するとお湯を沸かすことすらできません。カセットコンロがあれば調理は代替できますが、それも用意していない家では、電源の有無がそのまま食事の可否になります。
在宅の医療機器を使っている場合は、優先度が最も高くなります。ただしこれは自己判断で機種を選ぶ話ではありません。必要な電力量と使える電源の条件は、機器のメーカーと主治医に必ず確認してください。停電時の対応手順を含めて、事前に相談しておくべき事柄です。
乳幼児がいる家庭では、ミルクのお湯や搾乳器が止まると困ります。とはいえここはカセットコンロでも代替できるので、「電気でしかできないことがどれだけあるか」を数えてみるといいと思います。
高齢の家族と暮らしている場合も、夏の暑さがそのまま健康の問題になります。扇風機は50W程度なので、500Whのポータブル電源でも8時間ほど回せます。この用途なら大容量でなくても意味があります。ペットのいるお宅も同じで、我が家の黒猫は真夏に空調が止まると本当にぐったりします。
なくても回る:カセットコンロ派・車から給電できる家庭
ガスが生きていれば、調理とお湯はまかなえます。都市ガスも止まる想定ならカセットコンロとボンベを常備しておけば、電気に頼らず温かいものが食べられます。ボンベは1本で1時間前後が目安なので、6〜9本ほど回しておけば数日は動けます。
車がある家庭も強いです。シガーソケットからのUSB充電なら追加投資ゼロで、スマホは何度でも充電できます。1500Wクラスのインバーターを積めばコンセント家電も動きますが、そこまでやるならポータブル電源を買うのと変わりません。
[alert]積雪時や車庫内でのアイドリングは、排気ガスが車内に入る事故につながります。マフラー周りの除雪と換気を必ず確認してください。[/alert]
ガソリンは満タンではなく、半分を切ったら給油する習慣にしておくと、停電時にそのまま電源として使えます。

買わない備え方:モバイルバッテリー+乾電池の組み合わせ
「うちは、なくても回る側かもしれない」と思った方へ。ポータブル電源を買わずに停電をしのぐなら、モバイルバッテリーと乾電池の二本立てが現実的な解です。
モバイルバッテリーは10000mAh級を2個。1個は普段のカバンに入れて使い、もう1個は防災用として半年に一度充電します。乾電池側は、ランタン・ラジオ・小型扇風機を単3電池に統一しておくのがコツです。サイズがバラバラだと、いざというとき「この電池だけ足りない」が起きます。
モバイルバッテリー2個・単3電池20本・乾電池式ランタン2個・手回し兼用ラジオで、合計1万円前後。これで数時間から1日程度の停電はほぼ乗り切れます。
乾電池は使用推奨期限が5〜10年ありますが、買ったまま放置せず、リモコンや時計で日常的に使いながら買い足す——備蓄食品のローリングストックと同じ考え方で回すと、期限切れで捨てる無駄がなくなります。
迷うならレンタルや普段使いから試す
判断がつかないときは、いきなり買わずに一度借りてみるのが確実です。数千円で数日間試せるサービスがあり、実際に手にすると「思ったより重い」「意外と使える」がはっきりします。特に確かめてほしいのは、自宅の冷蔵庫やエアコンが本当に動くか、そして家の中で保管する場所があるかどうかです。
もうひとつの試し方が、普段使いから入ることです。キャンプ、庭仕事、車中泊、ベランダでの作業。日常で使う機会がある家庭なら、防災用としての出番の少なさという弱点が消えます。逆に「使う機会が思いつかない」なら、それが答えかもしれません。
レンタルの選び方や、試すときに見るべきポイントはポータブル電源のレンタルの記事にまとめています。
買うと決めた人は選び方へ
必要だと判断したなら、次は失敗しない選び方です。見るところは多くありません。
まず容量(Wh)。スマホと明かりだけなら500Wh級、冷蔵庫まで動かすなら1000Wh級以上が目安です。次に定格出力(W)。容量が大きくても定格出力が足りなければ、電子レンジやドライヤーのような消費電力の大きい家電は動きません。使いたい家電の消費電力を先に確認してください。
電池の種類も重要です。リン酸鉄リチウムイオン(LiFePO4)は充放電のサイクル寿命が2000〜6000回と長く、発火リスクも比較的低いため、長期保管する防災用途に向いています。
本体とACアダプターにPSEマークがあるか、日本語の説明書と国内の問い合わせ窓口・保証年数が明記されているかを、購入前に必ず確認してください。
容量の割に極端に安い製品は、表示容量と実際の使用可能量が大きく食い違う場合があります。メーカー名の善し悪しで断じるより、この3点——PSE・保証・容量の裏付け——で見分けるのが確実です。具体的な機種の比較はポータブル電源のおすすめ記事で扱っています。
よくある質問
災害時に実際どんな場面で使う?
現実的に多いのは、スマホと家族の端末の充電、明かり、夏の扇風機、冬の電気毛布です。次いで冷蔵庫の保冷、在宅ワークのパソコンとWi-Fiルーターが続きます。
逆に期待しすぎないほうがいいのが、エアコンと電子レンジ、ドライヤー、電気ケトルです。消費電力が1000Wを超えるものが多く、動かせたとしても容量を一気に食います。調理と保温はカセットコンロ、電源はスマホと扇風機に使うという役割分担のほうが、電気を長く保たせられます。
維持費や買い替えのサイクルは?
維持費はほとんどかかりません。1000Whを満充電しても電気代は数十円程度です。手間としては、残量50〜60%を目安に3か月に一度ほど充電し直すこと。満充電のまま、あるいは空のまま何年も放置すると電池が傷みます。
寿命は電池の種類次第です。リン酸鉄なら年に数回の使用で10年は使える計算ですが、防災用として置きっぱなしにする場合でも、点検の習慣がないと肝心なときに使えません。9月の防災の日か年末の大掃除に合わせて、年2回の充電と動作確認を決めておくと忘れません。
最後にひとつ。ポータブル電源を持っていない家庭が、備えのできていない家庭というわけではありません。水と食料、明かり、トイレの備えが整っていれば、電源は次の段階の話です。優先順位を守って、ここまでできていれば十分、と一度立ち止まってよいところです。停電時の復旧見込みや避難に関する情報は、お住まいの電力会社と自治体の公式発表で確認してください。
