災害が起きたら避難所へ——そう思っている方は多いのですが、家が無事なら自宅にとどまる「在宅避難」が選択肢になります。この記事では、在宅避難ができる家とできない家の見分け方、水・食料・トイレを何日分そろえればいいのか、停電や断水で実際に困ることをどう先回りするかを、順番に整理しました。マンションと戸建てで違う注意点、支援物資の受け取り方もまとめています。まずここから、という優先順位で読んでいただけます。
在宅避難とは:避難所に行かないという選択
在宅避難とは、災害のあとも自宅の安全が保たれている場合に、避難所へ移らず自宅で生活を続けることをいいます。特別な制度ではなく、避難行動のひとつの形です。国や自治体も、住まいが無事であれば自宅にとどまることを前提に備蓄を呼びかけています。横浜市や文京区、千代田区のように、在宅避難を正面から推奨するリーフレットを出している自治体も増えました。
背景にあるのは、避難所の収容力です。大都市の指定避難所は、その地域の住民全員が入れる規模では作られていません。自宅が住める状態なら在宅避難を選ぶことが、避難所を本当に必要とする人に場所を空けることにもつながります。千代田区のように区内全域が「地区内残留地区」とされ、そもそも大規模な地域外避難を前提としていない地域もあります。
ここで大事なのは、在宅避難は「我慢して家にいること」ではないという点です。水も電気も止まった家で耐えることではなく、備えがあるから家で暮らせる状態をつくっておく、という話です。だから備蓄の中身と、家そのものの安全確認がセットになります。
在宅避難のメリット・デメリット
在宅避難のいちばんの利点は、生活のリズムが変わらないことです。自分の布団で眠れて、トイレの場所も台所の勝手も分かっている。プライバシーが保たれ、集団生活のストレスや感染症のリスクも避けられます。我が家には5歳になる黒猫のモカがいますが、ペットと一緒に過ごせることも大きな理由です。ペット同伴の受け入れ体制は避難所ごとに大きく違い、ケージ飼育が原則だったり、屋外スペースだけだったりします。高齢の家族がいる場合も、慣れた環境で服薬や介助を続けられる意味は小さくありません。
一方で、家にいると情報も物資も自動的には届きません。避難所には人が集まるぶん、給水情報も炊き出しも掲示や口伝えで回りますが、在宅避難者はそれを取りに行く必要があります。この「情報から取り残される」ことが、在宅避難の最大の弱点です。

在宅避難できるかの判断基準:家の安全・ライフライン・周りの状況
在宅避難は「したい人がする」ものではなく、条件を満たした家だけができるものです。判断は三段階で考えると迷いません。建物、周辺の危険、そして生活の継続性です。
まず建物です。地震のあとは、傾き、基礎や壁の大きなひび、ドアや窓の開閉、天井や梁のずれを見ます。少しでも傾きを感じたら、その家にとどまってはいけません。自治体は地震後に「被災建築物応急危険度判定」を行い、赤(危険・立ち入らない)、黄(要注意)、緑(使用可能)のステッカーを建物に貼ります。赤や黄が貼られた建物での在宅避難は選べません。これは余震での二次災害を防ぐための調査で、罹災証明のための被害認定調査とは別物です。緑だから補償が出ない、赤だから全壊、という関係にはなりません。
次に周辺の危険です。水害は建物が無事でも成立しません。浸水想定が深い低地、土砂災害警戒区域、津波浸水想定区域では、在宅避難ではなく事前の立ち退き避難が原則です。ハザードマップで自宅の位置を確認し、色が塗られていたら「うちは在宅避難できない家」と最初から決めておくほうが、当日に迷わずに済みます。同じ市内でも、地震なら在宅避難、大雨なら早めに家を出る、と災害の種類で結論が変わる家はふつうにあります。
三つめが生活の継続性です。断水中にトイレを流せるか、真夏や真冬に室温を保てるか、階段でしか出入りできない階に高齢の家族がいないか。ここが崩れると、建物が無事でも数日で限界がきます。
浸水想定区域・土砂災害警戒区域にある家、赤や黄のステッカーが貼られた建物、傾きやガス臭を感じる家は、在宅避難の対象外です。
高齢の家族の体調、真夏の室温、断水の長期化などで「これ以上は無理」と思ったら、途中から避難所に移る判断も普通の選択です。
避難するかとどまるかの考え方そのものは、避難の判断基準をまとめた記事で災害の種類ごとに整理しています。あわせて読んでいただくと、家族で話すときの土台になります。

在宅避難の備え:何日分・何が必要か
備蓄の日数は、国の防災の考え方では最低3日分、できれば1週間分が目安です。3日というのは救助・支援が動き出すまでの時間、1週間は流通やライフラインの復旧に必要な時間から来ています。過去の大きな地震では、電気は数日で戻っても水道は数週間かかった地域がありました。在宅避難の備蓄は「食料は1週間、水とトイレはもう少し多め」と考えるとバランスが取れます。
水・食料・トイレの目安
水は1人1日3リットルが基本です。飲み水と調理に使う分の合計で、手洗いや食器洗いは含みません。夫婦二人で1週間なら42リットル、2リットルのペットボトルで21本、6本入りの箱で3箱半です。玄関の収納に2箱、押し入れに1箱、台所に1箱と分けて置くと、どこかが取り出せなくなっても困りません。ペットがいる家は、その子の分も別に数えておきます。
食料は、特別な非常食を買い込むより、日常の買い置きを少し多めにして食べながら回すローリングストックのほうが続きます。レトルトご飯、缶詰、乾麺、インスタント味噌汁、野菜ジュース。ここに、火を使わずに食べられるものを2日分ほど混ぜておくと、ガスが止まった初日を乗り切れます。
そして、いちばん忘れられがちなのが携帯トイレです。国のガイドラインでは、1人が1日に使う回数を5回程度として計算します。二人暮らしで1週間分なら5回×7日×2人で70回分。これは想像よりずっと多い数字で、初めて計算したときは私も驚きました。断水中や排水管の点検が済んでいない状態で水を流すと、下の階や屋外に汚水があふれることがあります。トイレの備えだけは、多めに買っておいて後悔しません。
必要なものの一覧と、それぞれいくらで揃うかは在宅避難の備蓄リストにまとめています。買い足す前にそちらで全体量を確認してみてください。
停電・断水への備え
停電で最初に困るのは、明かりと情報と、季節によっては冷暖房です。懐中電灯より、両手が空いて部屋全体を照らせるランタン型のライトのほうが実用的でした。情報は乾電池式か手回しのラジオが確実で、スマートフォンは充電を情報収集に温存します。モバイルバッテリーは1人2つ、満充電にして半年に一度使って入れ替えます。
ポータブル電源まで持つかどうかは、家庭の事情で決めて構いません。医療機器を使う家族がいる、真夏に扇風機を回したい、というはっきりした用途があるなら価値があります。逆に「なんとなく安心だから」で高額な製品を買うより、その予算を水とトイレと食料に回したほうが効きます。
断水への備えは、飲み水とは別に生活用水を確保することです。地震のあと水が止まる前に浴槽に水を張る、ポリタンクを1つ用意しておく。給水所からの持ち帰りは想像以上に重いので、10リットル程度のタンクとキャリーカートの組み合わせが現実の運用に合います。
電気・水・トイレのうち、備えが薄い順に手をつけるのが最短です。多くの家庭で薄いのはトイレです。
在宅避難で困ることを先回りして対策する
備蓄がそろっていても、在宅避難でつまずくポイントはだいたい決まっています。情報と物資、それにトイレとごみです。
情報と支援物資の受け取り方/避難所との付き合い方
在宅避難でも、避難所の支援を受けられないわけではありません。多くの自治体で、指定避難所は地域の物資と情報の拠点として運営され、在宅避難者も食料や水、生活用品を受け取れる扱いになっています。ただし、待っていて届くものではなく、自分で足を運ぶのが前提です。
ここで効くのが、災害が起きる前に最寄りの避難所がどこかを確認し、実際に一度歩いてみることです。徒歩何分か、途中にブロック塀や狭い道がないか。そして自治会や町内会とつながりがあると、給水車の時間や炊き出しの情報が回ってきます。都市部では地域の付き合いが薄れがちですが、在宅避難という形を選ぶなら、この一本の線だけは残しておく価値があります。
あわせて、自治体の防災アプリやSNSアカウント、防災行政無線の内容を電話で聞ける番号を、平時に登録・メモしておきます。停電時はラジオが主役に戻ります。
災害時はSNSに古い映像や誤った情報が大量に流れます。給水・支援・避難所の情報は、自治体や気象庁など公的機関の発信で確かめてから動いてください。
トイレとごみの問題
断水中のトイレは、便座に袋をかけて凝固剤を入れる携帯トイレで対応します。使用後の袋は口を縛り、ふた付きのバケツや厚手のごみ袋で二重にして、直射日光の当たらない場所に置きます。夏場はにおいと衛生の問題が出るため、防臭袋があると生活の質がまったく違います。
そして、ごみ収集は災害後しばらく止まります。生ごみと排せつ物のごみが同時に家にたまることを想定して、保管場所を先に決めておくのがコツです。ベランダの隅、屋外の物置、玄関土間。集合住宅なら、共用部に出さず自宅内で保管する期間があると考えておきます。ごみの出し方は被災後に自治体から特別なルールが出るので、その案内に従います。
もうひとつ、地震後の排水には注意が要ります。建物や地中の排水管が壊れていると、上の階で流した水が下の階の天井から漏れることがあります。集合住宅では管理組合や管理会社の点検・確認が出るまで、水を流さない前提で動くのが安全です。
マンションと戸建てで変わる注意点
マンションは構造的に在宅避難に向いています。新しい耐震基準の建物なら地震での倒壊リスクが比較的低く、上層階は浸水の心配も小さい。一方で、停電するとエレベーターも給水ポンプも止まります。高層階に住んでいる場合、水を階段で運び上げる負担は現実的な問題です。10リットルの水は10キロで、これを何度も往復するのは無理があります。だからこそマンションこそ備蓄量を多めに、というのが管理組合の防災マニュアルでよく書かれていることです。
玄関ドアが変形して開かなくなる、という事態にも備えます。バールが共用部に備えてあるか、管理組合の防災備蓄に何が入っているかを一度確認しておくと、自宅で買い足すものが絞れます。
戸建ては、電気が復旧すれば自宅の設備がそのまま使えるのが強みです。カセットコンロで調理でき、庭やカーポートにごみを一時保管でき、車があれば移動手段と充電手段にもなります。弱点は建物そのもので、1981年以前の旧耐震基準で建てられた家、瓦屋根の重い家は、地震での被害が大きくなりやすい。耐震診断や補強は費用がかかりますが、在宅避難の可否を根本から左右します。自治体の耐震診断補助を使えるか、住んでいる市区町村の窓口で確認してみてください。
| 項目 | マンション | 戸建て |
|---|---|---|
| 建物の安全 | 新耐震なら比較的有利 | 築年数と屋根の重さで差が大きい |
| 停電の影響 | エレベーター・給水ポンプが止まる | 自宅設備のみ。復旧すれば元通り |
| 水の確保 | 階段での運搬負担が大きい | 運搬は楽。浴槽の貯水が有効 |
| 排水 | 点検まで流さない前提 | 敷地内の配管損傷を確認 |
| ごみの保管 | 専有部での保管が基本 | 屋外に一時保管できる |
よくある質問
在宅避難は何日くらい続く想定?
備蓄の設計としては1週間を基準にします。実際の期間はライフラインの復旧速度で決まり、電気は比較的早く、水道とガスは長引く傾向があります。過去の大規模地震では、水道の全戸復旧に1か月以上かかった地域もありました。1週間分をひととおり揃えたうえで、水と携帯トイレだけ2週間分に増やしておくと、復旧が遅れたときの余裕になります。ここまで用意できていれば、家庭の備えとしては十分です。
地震のときも在宅避難できる?
できます。というより、地震は在宅避難がもっとも選ばれやすい災害です。水害と違って自宅そのものが安全なら、その場にとどまることが基本になります。条件は、建物に傾きや大きなひび割れがないこと、火災やガス漏れがないこと、周囲に倒壊や延焼の危険がないこと。揺れの直後は判断がつきにくいので、まず身の安全を確保し、明るくなってから建物の状態を確認します。応急危険度判定の結果が出たら、それに従ってください。
在宅避難でも避難所の支援は受けられる?
受けられます。災害救助法に基づく食品や飲料水の給与は、避難所にいる人だけを対象にしたものではなく、住家に被害を受けて日常の食事に支障がある人が対象です。在宅避難者も物資の配布や給水の対象になります。ただし自動的に届くものではないため、最寄りの避難所や自治体の窓口に足を運び、在宅避難していることを伝えて世帯人数を登録しておくことが実際には重要です。罹災証明の申請や、その後の各種支援の案内も、そこが入り口になります。運用の細かい部分は自治体ごとに違うので、お住まいの市区町村の防災ページで確認してください。
在宅避難は、特別な設備を入れる話ではありません。ハザードマップで自宅の位置を確かめ、水を42リットル、携帯トイレを70回分、食料を1週間分。まずはこの三つが家にあるかを数えるところから始めてみてください。全部を一度に揃える必要はなく、次の買い物でひとつ足す、それを何回か繰り返せば形になります。
