「非常食を用意しよう」と思って防災コーナーへ行き、5年保存セットの値段を見て引き返した——そんな話をよく聞きます。この記事では、いつものスーパーの売り場だけで3日分の食料を組み立てる方法を、売り場別のリストと「4人家族3日分をひとかごで買うといくらか」というモデルでまとめます。あわせて、スーパーの品では埋まらない部分を長期保存食でどう補うかも整理します。
非常食は「防災コーナー」で買わなくていい
農林水産省の「災害時に備えた食品ストックガイド」は、家庭の備蓄として最低3日分、できれば1週間分の食料をすすめています。そして、その実践方法として案内されているのがローリングストック——普段食べているものを少し多めに買い、食べたぶんだけ買い足していくやり方です。つまり公的なガイドの側が、「特別な保存食を買い込むこと」ではなく「いつもの食品を回すこと」を家庭備蓄の基本に据えているわけです。
専用の保存食だけで3日分をそろえようとすると、three つの壁にぶつかります。まず値段が高いこと。次に食べ慣れない味であること。そして5年後に期限が来る食品は、5年間まったく開けないまま、存在ごと忘れられやすいことです。私が家計相談で見てきたかぎり、期限切れの保存食セットを押し入れの奥から発掘して落ち込む——という失敗はかなりの数にのぼります。
スーパーの食品は賞味期限が半年から1年半くらいのものが中心で、たしかに保存期間では負けます。けれど、日常の食卓に登場するぶん、期限が切れる前に自然と食べて買い足せます。備えは「買って置く」より「買って、食べて、買い足す」ほうが続きます。

スーパーで買える非常食リスト:売り場別にまわる
買い物の前提として、停電と断水が同時に起きた状態を想像してください。冷蔵庫は使えず、水道からは水が出ず、電子レンジも炊飯器も動きません。カセットコンロがあればお湯は沸かせますが、それも「あれば」の話です。この条件で口に入れられるものを、売り場をまわりながら集めていきます。
主食売り場(パックご飯・乾麺・シリアル)
まずパックご飯です。常温で保存でき、賞味期限はおおむね製造から1年前後。温めずに食べられなくはありませんが、冷えたご飯はでんぷんが固くなって食べにくいので、湯せんできる手段とセットで考えます。1人1食1個が目安です。
乾麺(パスタ・そうめん・うどん)は期限が2〜3年と長く、値段も手ごろで、備蓄としては優秀に見えます。ただし茹でるのに大量の水と火が必要で、断水時にはいちばん出番が遅い食品です。「ライフラインが部分的に戻ってから」の主食として位置づけると納得がいきます。
意外と頼りになるのがシリアルやグラノーラです。加熱も水も要らず、常温保存のロングライフ牛乳や豆乳をかければ、それだけで一食になります。栄養を強化した製品も多く、火が使えない初日の朝にちょうどいい主食です。切り餅も、期限が長く場所を取らない選択肢として主食売り場に置かれています。
缶詰・レトルト売り場
備蓄の中心はこの売り場です。サバの水煮・味噌煮、ツナ、焼き鳥、コンビーフといった缶詰は、開けたらそのまま食べられます。魚の缶詰はたんぱく質と脂質がしっかり取れて、汁ごと食べれば塩分の補給にもなります。コーン缶やトマト缶、みかんなどの果物缶は、災害時に不足しやすいビタミンと食物繊維を補ってくれる存在です。
レトルトのカレーや牛丼の具、パスタソースも常温で1年前後もちます。パッケージに「そのままでも食べられます」と書いてある製品を選んでおくと、火が使えない日にそのまま使えます。インスタントの味噌汁やスープはお湯が前提ですが、温かい汁物は体温と気持ちの両方に効くので、少し多めに持っておきたいところです。
乾燥わかめ、高野豆腐、切り干し大根といった乾物も忘れずに。軽くて日持ちして、水で戻せます。缶詰やレトルトだけの食卓に食物繊維を足せる、地味ですが効く一群です。
缶詰はプルトップ(缶切り不要)かどうかを、レジに行く前に確認しておきます。
菓子・飲料売り場
ようかん、ビスケット、チョコレート、ナッツ、飴。この売り場のものは「おまけ」ではなく、れっきとした備蓄です。ようかんは1個で150〜200kcal前後を無加熱・無水で取れて、期限も1年ほど。避難生活では食事の回数が減り、糖分とカロリーが不足しがちになります。子どもや高齢の家族がいる家庭では、甘いものが食欲を戻すきっかけになることもあります。
飲料は水が最優先ですが、野菜ジュースを数本混ぜておくと、野菜が食べられない数日のビタミン補給になります。常温保存のロングライフ牛乳や豆乳は、シリアルと組み合わせる前提で1Lを2〜3本。冷蔵庫が使えない状況では、常温でいける飲み物が持つ意味は大きくなります。
選ぶ基準:期限・そのまま食べられるか・好きかどうか
売り場で迷ったときの判断は、三つで足ります。
一つ目は期限です。目安として、購入時点で賞味期限が半年以上残っているものを選びます。スーパーの棚は手前から古い順に並んでいるので、備蓄用は奥から取ります(普段すぐ食べるぶんは手前から取る——これは食品ロスの観点で、店頭でも呼びかけられているやり方です)。
二つ目は、そのまま食べられるかどうか。停電と断水が重なった最初の1〜2日は、加熱を前提にした食品がほぼ全滅します。備蓄全体のうち、加熱が必要なものは半分までに抑えると、初日から詰まりません。缶詰・菓子・シリアル・ロングライフ牛乳が無加熱側、パックご飯・レトルト・乾麺・インスタント汁物が加熱側です。
三つ目は、好きかどうか。これがいちばん軽く見られて、いちばん効きます。災害後は睡眠も環境も乱れて食欲が落ちます。そこで食べ慣れない味のものを出しても、手が伸びません。逆に、いつも食べている銘柄のカレーやスープは、状況が変わっても普通に食べられます。備蓄は「非常時用の特別な食べ物」ではなく「いつもの食べ物の在庫」だと考えると、選ぶ基準は自然と決まります。

一度の買い物でそろえるモデルかご:4人家族3日分
実際に、4人家族が3日分(36食ぶん)をひとかごで買う想定の中身です。金額は2026年8月現在、一般的なスーパーの店頭で見かける価格帯からの目安で、店舗や時期によって上下します。
| 品目 | 数量 | 目安価格 |
|---|---|---|
| パックご飯(200g) | 12個入り×2 | 約2,400円 |
| パスタ・そうめん | 600g×2袋 | 約600円 |
| 魚・肉の缶詰(サバ・ツナ・焼き鳥) | 10缶 | 約1,800円 |
| レトルト(カレー・丼の具) | 8袋 | 約1,200円 |
| インスタント味噌汁・スープ | 20食 | 約800円 |
| 野菜ジュース(200ml) | 12本 | 約1,200円 |
| ロングライフ牛乳・豆乳(1L) | 3本 | 約700円 |
| 菓子(ようかん・ビスケット・ナッツ) | ひとまとめ | 約800円 |
| 水(2L×6本) | 3ケース | 約1,800円 |
| 合計 | 約11,300円 |
水を除けば約9,500円、水を含めても1万1千円台。5年保存の非常食セットを4人分そろえると、これでは収まらないことが多いはずです。しかも中身は全部、期限が来る前に普段の食事で消費できます。
ここで大事なのは、買って終わりにしないことです。食べたら同じものを買い足す、この一往復が回り始めれば、備蓄は勝手に維持されます。回し方のコツは食品のローリングストックのやり方にまとめてあります。
飲用と調理に必要な水は1人1日3リットルが目安。4人家族の3日分なら36リットルで、2リットル×6本のケースが3つぶんになります。食料より重くてかさばるので、食品と同じ買い物で全部運ぼうとせず、水はネット注文や別日の買い足しに分けたほうが現実に回ります。
スーパー備蓄の弱点:長期保存食で補う場面
ここまでスーパー中心で書いてきましたが、弱点もはっきりしています。賞味期限が半年から1年半と短いこと、乾麺のように調理に水を食う品が混じること、そして常温保存とはいえ夏場の室温が上がる場所には置けないことです。どれも「日常的に目に入る場所で回す」ことが前提の備え方だからです。
逆に言えば、回せない場所には長期保存食が要るということになります。具体的には三つの場面です。ひとつは持ち出し袋の中。何年も開けない前提なので、5年もつアルファ米やパンの缶詰が向きます。アルファ米は水を注いで60分ほど(お湯なら15分ほど)で戻せるので、火が使えない状況でも主食になります。ふたつめは車の中や職場のロッカーなど、家の外に置く分。みっつめは、在宅避難が1週間を超えたときの底として、押し入れの奥に据え置く分です。
日常で回す3日分はスーパーで、持ち出し・車・長期の底になる分だけ長期保存食で。
長期保存食の種類ごとの向き不向きは長期保存できる非常食の選び方で詳しく扱っています。全部を5年保存でそろえる必要はまったくありません。
よくある質問
業務スーパーやドラッグストアでもそろう?
そろいます。業務スーパーは乾麺・缶詰・レトルトが大容量で安く、4人以上の世帯や、消費のペースが速い家庭には向きます。ただし1袋あたりの量が多いぶん、開封後に食べきれるかを先に考えないと、備蓄ではなく在庫の山になります。
ドラッグストアは、食品の品ぞろえこそスーパーに劣りますが、水・カセットボンベ・ウェットティッシュ・常備薬・生理用品が同じ店で買えるのが強みです。食料以外の備えをまとめて足したいときは、こちらのほうが一度で済みます。どちらか一方に決めるより、「主食と缶詰はスーパー、水と衛生用品はドラッグストア」と役割で分けるほうが買い物としてラクです。
冷凍食品は備蓄に数えていい?
常温で保存できる備蓄とは別枠で考えます。停電すると家庭用冷凍庫の中身は、扉を開けなければおおむね1日程度は持ちますが、そこから先は溶けていきます。つまり冷凍食品は「3日分の備蓄」の柱にはなりません。
ただし価値がないわけではなく、停電直後の数時間から半日、いちばん最初に食べるべき食料が冷凍庫の中身です。溶けかけたものから順に消費すれば、常温の備蓄に手をつけるタイミングを丸一日遅らせられます。冷凍庫は普段から詰まっているほど保冷力が上がるので、隙間にペットボトルの水を凍らせて入れておくと、保冷剤としても飲料としても働きます。備蓄の一員というより、停電時の「先に食べる係」という位置づけです。
今日はここまでで十分です
非常食のために特別な買い物をする必要はありません。次の買い物のとき、いつものかごに缶詰を3つとパックご飯をひとパック多めに入れる。それだけで、家の中の食料は確実に増えます。完璧なリストを作ってから動こうとすると、たいてい作った時点で満足して終わります。
備蓄の必要量や自治体ごとの推奨は地域の災害想定で変わるので、量の目安は農林水産省の食品ストックガイドやお住まいの自治体の公式サイトで確認してみてください。
