賃貸でできる家具転倒防止|穴を開けない固定方法とモノ別対策

突っ張り棒で固定された背の高い木製の本棚

賃貸だから家具の固定はあきらめている、という声をよく聞きます。けれど、壁にネジを打てなくてもできることはたくさんあります。この記事では、原状回復のルール上どこまでが許されるのかを整理したうえで、穴を開けない固定方法の使い分け、冷蔵庫・テレビ・食器棚といったモノ別の対策、そして退去時に困らないための確認事項までをまとめました。まずここから、という順番で読んでいただければ大丈夫です。

目次

賃貸の壁に穴を開けられない問題:原状回復の考え方

「賃貸は壁に穴を開けてはいけない」と一括りに覚えている方が多いのですが、実際のルールはもう少し細かく分かれています。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、ポスターやカレンダーを貼るために使った画びょう・ピン程度の穴は、通常の生活の範囲内で生じるもの(通常損耗)として扱われています。ただし、下地ボードの張り替えが必要にならない程度のもの、という条件付きです。

一方で、ネジやビスの穴は扱いが変わります。家具の固定、棚の増設、壁掛けテレビなどは「部屋の仕様に手を加えた」と見なされやすく、下地ボードまで傷が及べば借主の負担になることがあります。つまり、賃貸で家具を固定しづらいのは壁そのものの問題というより、ネジ穴が通常損耗の線引きの外側に置かれやすいことが理由です。

ここで大事なのは、ガイドラインはあくまで判断の目安であって、実際に優先されるのは契約書の特約だという点です。「壁面への釘打ち・ビス打ちは不可」と明記されている物件は珍しくありませんし、逆に管理会社に相談すれば耐震目的の固定を認めてもらえる例もあります。

まず賃貸借契約書の「禁止事項」と「原状回復」の条項を読み直し、ネジ止めの可否を確認しておきましょう。

とはいえ、契約書を読むのも管理会社に連絡するのも億劫、という日もあります。その場合は、この先で紹介する穴を開けない方法だけでも十分に前へ進めます。何もしていない状態と、正しく突っ張り棒を入れた状態とでは、地震のときの結果がまるで違ってきます。

透明な耐震ジェルマットとくさび型の家具ストッパー

穴を開けない固定方法の選択肢

穴を開けない器具は大きく三種類、突っ張り棒(ポール式)、粘着マット・ジェル、家具の下に敷くストッパー式に分かれます。それぞれ単独では、壁にネジで留めるL型金具にはかないません。ところが東京消防庁が公開している家具転倒防止の資料では、ポール式とストッパー式(または粘着マット式)を組み合わせれば、L型金具と同等の効果が期待できるとされています。賃貸住まいにとって、これはとても心強い事実です。

賃貸の家具固定は「突っ張り棒だけ」で終わらせず、必ず足元の対策と二段構えにするのが基本です。

逆に言えば、突っ張り棒を一本立てただけで安心してしまうのがいちばん惜しいパターンです。上と下、両方から挟むと考えてください。

突っ張り棒(ポール式)の正しい使い方

突っ張り棒は取り付けが簡単なぶん、置き方を少し間違えるだけで効きが落ちます。ポイントは設置位置と、天井側の受け方です。家具は前へ倒れますから、棒は家具の前端ではなく、壁に近い奥側の左右二本に立てます。手前に立てると、家具が前傾したときに棒が抜けやすくなります。

もうひとつは天井の強さです。天井板は場所によって強度が違い、弱いところに強い力がかかるとへこみます。突っ張り棒の上下に厚めの板を挟んで力を分散させると、天井への負担が減り、固定力も上がります。

STEP
設置場所を決める

家具の奥側(壁に近い側)の左右2か所を選びます。天井の下地が通っている位置に当てられれば理想的です。

STEP
板を用意する

天井と棒の間、家具と棒の間に厚さ1〜2cm程度の板を挟みます。付属の板があればそれを使います。

STEP
隙間を詰めて伸ばす

天井と家具の隙間が大きいほど不利になります。棒はできるだけ短く済む位置に置き、しっかり伸ばして固定します。

STEP
手で揺すって確認する

設置後に家具を軽く前後へ揺すり、棒が動かないか確かめます。緩んでいれば締め直します。

突っ張り棒は時間が経つとわずかに緩みます。年に一度は締め直してください。我が家では9月の防災の日と年末の大掃除のときに、家じゅうの棒をひと通り触って回ることにしています。

粘着マット・ジェル

透明なゲル状のマットを家具の底面の四隅に貼り、床や台に密着させるタイプです。設置がいちばん手軽で、見た目もほとんど変わりません。テレビや電子レンジ、小さめの棚のように、重心がそれほど高くないものと相性がいい方法です。

注意したいのは相手の面です。粘着ゲルは接する面をきれいにしてから貼らないと本来の力が出ませんし、フローリングのワックスや家具の塗装を巻き込んで、剥がすときに跡が残ることがあります。賃貸では、床に直接貼らずに敷板や耐震マット対応のシートを一枚かませておくと、退去時の心配が減ります。

粘着力が落ちてきたときは、水洗いして自然乾燥させると戻る製品が多くあります。買い替える前に、まず洗ってみてください。

ストッパー式・家具の下に敷くタイプ

家具の前脚の下にくさび状の板を差し込み、家具全体をわずかに壁側へ傾ける器具です。地味な見た目ですが、家具の重心を後ろへ寄せるので効果は確かで、突っ張り棒との組み合わせで真価を発揮します。

差し込むときは家具を空にしてから作業したほうが安全です。重い本棚や食器棚は、中身を入れたまま前を持ち上げようとすると、その動作自体が危険になります。ひとりで無理をせず、二人で片側ずつ持ち上げるようにしてください。

耐震ラッチが付いたガラス扉の食器棚

モノ別の対策

器具の種類が分かったら、次は家の中のどれから手をつけるかです。優先順位は、倒れたときの被害の大きさと、生活への影響で決まります。

冷蔵庫

冷蔵庫は重量があり、キッチンという逃げ場の少ない場所に置かれています。倒れれば通り道をふさぎ、扉が開けば中身が床に散らばります。最近の機種の多くは背面上部に転倒防止用のベルトを掛ける金具が付いていて、付属のベルトが同梱されていることもあります。まず取扱説明書を確認してみてください。

壁側にネジを打てない場合は、背面のベルトは使わずに、キャスターのロックを掛けたうえで前脚側に耐震マットかストッパーを組み合わせます。冷蔵庫は前面に扉と食品の重みが集中するため、前へ出てくる動きを止めるだけでも違います。

テレビ

テレビは軽く見られがちですが、薄型で背が高く、台の上という高い位置にあります。落ちれば画面が割れ、破片が床に広がります。対策としては、スタンドの底面に粘着ゲルを貼るのが基本で、背面にストラップ用の穴があれば、テレビ台の背板とベルトでつないでおくとさらに安定します。

このとき、テレビ台そのものが固定されていなければ意味が薄れます。台ごと動くようでは、テレビだけ留めても一緒に移動してしまいます。台の脚にもマットを入れておきましょう。

食器棚・本棚

背が高くて中身が重い家具は、賃貸の地震対策でいちばん優先度の高い相手です。特に食器棚は、倒れなくても扉が開いて中の食器が飛び出すという別のリスクがあります。開き扉には耐震ラッチ、引き戸や引き出しには開き止めのストッパーを付けておくと、片付けの手間がまるで変わります。ガラス面には飛散防止フィルムを貼っておくと、割れたときに破片が飛び散りにくくなります。

本棚は、重い本を下段へ、軽い本を上段へ移すだけでも重心が下がります。器具を買う前にできる、費用ゼロの対策です。

【収納の詰め方にも気を配る】

家具の上に段ボール箱や小型家電を積んでいると、家具が倒れなくても中身だけが落ちてきます。頭より高い位置には、落ちてきても危なくない軽いものだけを置いてください。

固定できないときは配置で守る

どうしても固定できない家具はあります。天井が高すぎて突っ張り棒が届かない、天井が斜めになっている、収納の位置的に器具を入れられない。そんなときに効くのが配置の見直しで、器具を一つも買わずに今日できる対策でもあります。

考え方はシンプルで、「倒れても人に当たらない向き」「倒れても出口をふさがない位置」に置き換えることです。寝室であれば、背の高い家具は寝ている人の頭側や体の上に倒れてこない場所へ移します。廊下や玄関に向かって倒れる配置になっていないかも確認したいところです。夜中の地震で停電したとき、暗い中を出口へ向かう通り道に家具が倒れていると、その先の行動がすべて遅れます。

動物と暮らしているご家庭では、猫の通り道や隠れ場所も見てあげてください。我が家の黒猫は家具の裏の隙間に入り込む癖があるので、そこに倒れ込む家具がないかを一度確かめました。高齢のご家族がいる場合も同様で、ベッドから廊下までの経路を最優先で空けておくのが順番として正しいと思います。

固定の具体的な方法や器具の選び方は、持ち家も含めた基本編として家具の転倒防止の基本にまとめています。あわせてご覧ください。

退去時に困らないためのチェック

賃貸での対策は、付けるときに「外すときのこと」まで考えておくと後が楽になります。難しいことではなく、次の三点を意識するだけで十分です。

ひとつめは、設置前の写真です。突っ張り棒を立てる天井、マットを貼る床、家具の背面を、取り付ける前に撮っておきます。もともとあった傷やへこみを記録しておけば、退去時に「これは入居前からありました」と説明できます。

ふたつめは、天井や床に直接触れる面の養生です。突っ張り棒には板を挟む、粘着ゲルは床に直貼りしない。この二つを守っておけば、跡が残る可能性はかなり下がります。

みっつめは、剥がし方です。粘着ゲルは無理に引っ張らず、糸を隙間に通して少しずつ切り離すか、専用の剥がし方に従います。急いで引き剥がすと、床材の表面ごと持っていってしまうことがあります。

ネジ止めを検討する場合は、作業する前に管理会社へ相談してください。事後の報告では、原状回復の負担割合で不利になることがあります。

ここまで読んで、全部やらなければと思われたかもしれませんが、そこまでする必要はありません。寝室の背の高い家具と、キッチンの食器棚。この二か所さえ手を打てば、賃貸の地震対策としては及第点です。残りは気づいたときに少しずつで構いません。

よくある質問

突っ張り棒で天井は傷まない?

何も挟まずに強く突っ張ると、天井板がへこむことがあります。棒の上下に厚めの板を挟んで力を分散させれば、傷むリスクはかなり下がります。天井の下地(野縁)が通っている位置に合わせられればより安心です。設置前に天井の状態を写真に残しておくと、退去時の説明もしやすくなります。

画びょう程度の穴なら開けてもいい?

国土交通省のガイドラインでは、ポスター等を貼るための画びょう・ピンの穴は通常損耗として扱われ、下地ボードの張り替えが不要な程度であれば貸主負担が基本とされています。ただし契約書に特約がある場合はそちらが優先されます。なお、画びょうで留める強度では家具の転倒防止にはなりませんので、固定用途には使わないでください。

突っ張り棒とマット、どちらか一つだけならどっち?

背の高い家具なら突っ張り棒です。ただし東京消防庁が示すように、ポール式は単独より足元の対策と組み合わせたときに効果が大きく上がります。予算に余裕ができたら、ストッパーか粘着マットを足してください。

器具の価格や在庫、対応サイズは時期によって変わります。購入前に、お使いの家具の寸法と天井までの隙間を測ったうえで、製品ごとの適合条件を確認してください。原状回復の細かい取り扱いは物件ごとに異なるため、判断に迷う場合は契約書と管理会社の案内を確認するのが確実です。

参考にした情報

東京消防庁「自宅の家具転対策」
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」

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