地震や大雨の報道を見るたびに気になるのが、家にいる犬や猫のことだと思います。この記事では、まず「同行避難」という言葉の意味を整理したうえで、今日から家でできる5つの備えを優先順位をつけて説明します。避難所に入れるのかという現実的な問題や、在宅避難・車中泊という選択肢についても触れます。我が家にも5歳の黒猫がいるので、猫を連れて動く前提でどこまで準備できるかは、ずっと考え続けてきたことです。
ペットの防災は「同行避難」が基本:まず言葉の整理から
環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン」(平成30年2月)では、災害時に飼い主がペットを連れて安全な場所まで避難する同行避難が原則として示されています。理由は二つあります。ひとつは、家に残されたペットの命が危険にさらされること。もうひとつは、放されたまま繁殖した動物が地域の衛生環境や住民の安全に影響を及ぼすことです。つまり同行避難は、ペットのためであると同時に、地域の被害を広げないための対策でもあります。
ここを誤解したまま準備を進めると、備えの中身がずれてしまいます。同行避難とは「一緒に避難する行動」のことであって、「避難所でペットと一緒に過ごせる」という意味ではありません。
同行避難と同伴避難の違い
同行避難は、避難する行為そのものを指します。避難所にたどり着いたあと、ペットは屋外のテントや専用スペース、車の中など、人の居住スペースとは別の場所で管理されるのが一般的です。一方の同伴避難は、避難所でペットと飼い主が同じ空間で過ごすことを指しますが、これは受け入れ体制が整った一部の自治体・施設に限られます。さらに同伴避難と一口に言っても、同じ建物の別室なのか、本当に同じ部屋で過ごせる「同室避難」なのかで中身は大きく変わります。
同行避難=連れて逃げること、同伴避難=避難先で一緒に過ごせること。この二つは別の話です。
自分の地域がどちらなのかは、お住まいの市区町村の防災担当課や動物愛護担当の窓口で確認できます。避難所ごとに扱いが違うことも珍しくないので、いちばん近い避難所と、次に近い避難所の二つを調べておくと、当日の判断が早くなります。
ペットのための備え5つ
ここからは具体的な備えです。防災グッズをすべて買い揃える必要はありません。順番としては、フードと水、トイレ用品、キャリー慣らし、迷子対策、健康の記録。この5つを押さえておけば、ペットの備えとしてはかなりの部分をカバーできます。
フードと水は何日分?
環境省のガイドラインでは、ペットのフードと水は最低でも5日分、できれば7日分以上が目安とされています。人間の備蓄が「3日分から、できれば1週間」と言われるのに対して少し長めなのは、ペット用の物資は支援の届き方が遅く、避難所の配給に含まれないことが多いからです。療法食や特定の療法用フードを食べている子は、代わりが手に入らないので、さらに余裕をもたせてください。
| 項目 | 目安 | 考え方 |
|---|---|---|
| フード | 5〜7日分以上 | いつもの味。銘柄を変えない |
| 水 | 5〜7日分 | 人用の備蓄と兼用でよい |
| 療法食・常備薬 | 2週間分を目標 | 代替が効かない。最優先 |
| 食器 | 1セット | 紙皿+ラップでも代用可 |
この量を「防災用」として別に買い込むと、期限切れで捨てることになります。おすすめは、ふだん使っているフードを1袋多めに買い、古いものから使って減った分を買い足すローリングストックです。猫のウェットフードのように賞味期限が長めのものは、この方法と相性がよく、我が家では常時7日分ほどが自然に回っています。
水は、人用に備えているペットボトルをそのまま使えます。硬度の高い外国産のミネラルウォーターは、猫や結石の既往がある子には避けたほうが無難なので、備蓄する銘柄は国産の軟水にしておくと兼用しやすくなります。
トイレ用品:ペットシーツの意外な使い道
断水したとき、いちばん早く困るのがトイレです。ペットシーツは、ペットのためだけでなく、人間用の簡易トイレの吸収材としてもそのまま使えます。便座にゴミ袋を二重にかぶせ、内側の袋にペットシーツを敷いて用を足し、使用後は内側の袋だけを縛って捨てる。この方法なら、市販の凝固剤がなくても数日はしのげます。
シーツの枚数は、ペットが1日に使う枚数×7日分に、人間用として1人1日5枚ほどを足して考えます。猫砂を使っている家庭でも、避難時はケージの底にシーツを敷く形になるので、ワイドサイズを一袋ストックしておくと使い回しが利きます。
あわせて、排泄物を入れる中身の見えないゴミ袋と、消臭のできる袋を用意してください。避難所でも在宅避難でも、においの管理はペットを連れている人が最も気を遣う部分です。ここを軽く見ないほうがいい、というのは被災地の記録に繰り返し出てくる話です。
キャリー・ケージに日頃から慣らす
道具の中でいちばん大事なのが、キャリーバッグとケージです。そして、これは買っただけでは備えになりません。災害時にキャリーへ入れられるかどうかは、平時にどれだけそこで過ごしているかで決まります。
猫の場合、キャリーを出すと病院を連想して逃げる子が多いので、ふだんから部屋の隅に置きっぱなしにして、扉を外し、寝床のひとつにしてしまうのが手っ取り早い方法です。うちの黒猫も、最初の1か月は近寄りもしませんでしたが、中に使い古したタオルを敷いてからは自分から入って寝るようになりました。犬なら、ケージの中でおやつを与える、扉を閉めて短時間過ごす、という練習を少しずつ積み重ねます。
扉のロックが振動や衝撃で外れないか(プラスチックの爪だけのタイプは不安が残ります)
持ち上げたときに底が抜けないか。底板を追加できる製品なら入れておく
自分の体力で、ペットを入れた状態を10分以上運べるか
最後の点は見落とされがちです。10kgの犬を入れたキャリーは、水や食料と一緒には運べません。大型犬なら歩かせる前提でリードとハーネスを、小型犬・猫ならリュック型のキャリーを、という具合に、体格から逆算して選んでください。
迷子対策:鑑札・マイクロチップ・写真
災害時にペットとはぐれる原因の多くは、驚いて飛び出してしまうことです。再会できるかどうかは、身元を示すものが体についているかで大きく変わります。
犬については、狂犬病予防法で市区町村への登録と、鑑札・注射済票を犬に着けておくことが飼い主の義務とされています。まずここが基本です。そのうえで、2022年6月1日施行の改正動物愛護管理法により、ブリーダーやペットショップが販売する犬猫にはマイクロチップの装着と情報登録が義務づけられました。すでに飼っている犬猫については努力義務なので、装着していない家庭も多いはずです。動物病院で装着でき、費用は数千円程度から。装着後の登録手続きまで済ませて初めて意味を持つ点に注意してください。
引っ越しや電話番号の変更をしたら、マイクロチップの登録情報も更新する。ここが古いままだと、読み取れても連絡がつきません。
そして意外と効くのが写真です。マイクロチップは読み取り機がないと確認できませんが、写真は掲示板に貼れます。飼い主とペットが一緒に写った写真を1枚、全身の柄が分かる写真を1枚、スマホと紙の両方で持っておいてください。紙で持つのは、停電でスマホが使えない時間帯が必ずあるからです。
健康の記録:ワクチン・持病・かかりつけ
避難所のペット受け入れや、ペットホテル・知人への一時預けでは、ワクチン接種の状況を聞かれます。接種証明書や、種類と接種時期を書いたメモをコピーして持ち出し袋に入れておくと、その場で話が進みます。
書いておきたいのは、名前・生年月日(推定でも可)・品種と毛色・不妊去勢の有無・ワクチンの種類と時期・持病と服用中の薬・かかりつけの動物病院の名称と連絡先です。フィラリア予防やノミダニ駆除の時期も添えておくと、預ける相手が判断しやすくなります。自治体や動物愛護団体が配っている「ペット防災手帳」を使ってもいいですし、A4の紙1枚に手書きでも十分に役目を果たします。
避難所にペットは入れる?現実と準備
正直に書くと、避難所の対応は自治体によって、さらには避難所ごとに違います。ペット専用スペースを屋外に設ける、屋根のある別室を用意する、ケージに入っていることを条件に受け入れる、といった形が多く、人の居室に犬猫を連れて入れる避難所は少数派です。動物アレルギーの人や、動物が苦手な人も同じ場所に避難してくるためです。
だからこそ、ケージやキャリーの中で静かに過ごせることが、避難所で受け入れてもらえるかどうかを分ける現実的な条件になります。前の項目で「慣らし」を強調したのは、これが理由です。加えて、無駄吠えをしない、他の動物がいても落ち着いていられる、といった点も見られます。完璧を求める必要はありませんが、少なくともケージに入れて数時間過ごせる状態をつくっておくと、選べる避難先が増えます。
避難所そのものの種類や、指定緊急避難場所との違いについては避難所と避難場所の違いで整理しています。ペットの受け入れ可否は、まずこの区別を理解してから自治体の情報にあたると、迷わずに読み解けます。
在宅避難・車中泊という選択肢
ペットがいる家庭では、家が無事であれば自宅にとどまる在宅避難が、いちばん現実的な選択肢になることが多いです。住み慣れた環境はペットのストレスが小さく、避難所での気疲れもありません。実際、過去の災害でも、ペットのために車中泊や在宅避難を選んだ飼い主は少なくありませんでした。
ただし在宅避難を選ぶには条件があります。建物に大きな損傷がないこと、家具の転倒対策ができていること、水・食料・トイレ・明かりが自宅で数日まかなえること。この前提が崩れていると、ただ危険な家に残るだけになってしまいます。在宅避難の具体的な準備は在宅避難の進め方にまとめました。
車中泊は、夏と冬でリスクの質が変わります。夏はエンジンを切ると車内温度が短時間で危険域まで上がるため、ペットだけを車に残すことはできません。冬は排気口が雪でふさがれると一酸化炭素が車内に入り込む危険があります。避難生活を車で送る場合は、こまめに体を動かすこと、水分をとることも忘れないでください。エコノミークラス症候群は、飼い主が動けなくなればペットの世話も止まる、という意味でも大きなリスクです。
停電が長引く場面では、夏の暑さ対策としてポータブル電源で扇風機やサーキュレーターを回せるかどうかが効いてきます。ペットは自分で暑さを避ける行動が限られるので、人よりも先に体調を崩します。電源の備えは、ペットのいる家庭ほど優先度が上がると考えてください。
持ち物の詳しいリストは別記事で
この記事では「何を考えて備えるか」を中心に書きました。実際にどの製品を、いくらで、どれだけ揃えるかという具体的なリストはペットの防災グッズリストにまとめています。キャリーやケージの選び方、折りたたみ食器やハーネスの実額、100均で足りるものと足りないものの線引きは、そちらを見ていただくのが早いはずです。
5つの備えのうち、今日できるのは「キャリーを部屋に出しておく」ことと「写真を1枚プリントする」ことです。この二つはお金がかかりません。フードのストックを1袋増やすのは、次の買い物のときで間に合います。全部を今週中に揃えようと思わなくて大丈夫です。
よくある質問
犬と猫で備えは違う?
基本の5項目は同じですが、力点が変わります。犬は避難所や屋外での集団生活に耐えられるかが焦点になるので、ケージ内で落ち着けること、リードとハーネスの二重装着(首輪が抜けたときの保険)、排泄のしつけが効いてきます。猫は逃げ隠れする性質が強いため、まず家から連れ出せるかが最大の関門です。キャリーへの慣らしと、洗濯ネットを1枚キャリーに入れておくこと(パニック時の保定に使えます)が実用的な備えになります。
ペット防災の資格があるって本当?
あります。ただし、いずれも民間団体が認定する資格です。「愛玩動物救命士」「ペット災害危機管理士」「人とペットの防災救急士」など複数の名称があり、認定団体も講習内容も別々です。国家資格ではないため、持っていれば避難所で優遇されるといった効力はありません。自分の家のペットを守るためだけなら、資格を取らなくても、環境省のガイドラインと自治体の案内を読めば十分です。地域の防災活動や動物ボランティアに関わりたい人が、知識の体系化と人のつながりのために取るもの、と位置づけておくとよいと思います。
なお、犬の飼い主に法律で義務づけられているのは、市区町村への登録と年1回の狂犬病予防注射、そして鑑札と注射済票を犬に着けておくことです。資格より先に、こちらが済んでいるかを確認してください。
ペットの防災は、道具をたくさん買うことではなく、連れて動ける状態をつくることです。キャリーに慣れていて、いつものフードが数日分あって、身元が分かるものが体についている。この三つが揃っていれば、家庭の備えとしては合格点だと思います。避難所の受け入れ方針や自治体の支援内容は変わることがあるので、住んでいる市区町村の公式サイトで一度確認しておいてください。