経験者が「実際に役立った」防災グッズ|公的調査と体験談の整理

ランタンとラジオ、カセットコンロと飲料水を並べた防災グッズ

防災グッズの記事はたくさんありますが、「実際に被災した人が何に助けられたのか」まで書いてあるものは意外と多くありません。この記事では、自治体が被災後に行った市民アンケートの結果と、経験者の体験談に共通して出てくるものを突き合わせて、優先順位の高い順に整理します。あわせて、災害の種類によって役立つものが変わること、「なくて困った」の声から逆算する考え方もお伝えします。防災グッズ売り場で何から手に取ればいいか迷っている方の、最初の一歩にしてください。

目次

この記事の根拠:被災経験者への調査と体験談から整理

もっとも参考になるのは、被災した自治体が住民に直接聞いた調査です。仙台市が東日本大震災の翌年(2012年3月)にまとめた市民アンケート調査では、震災前に用意していた備えについて「役に立ったか」を尋ねています。その結果、「懐中電灯・ろうそく」が96.9%、「携帯ラジオ」が95.5%、「カセットコンロ」が94.2%と、上位三つがいずれも9割を超えました。

注目したいのは、この三つが「明かり」「情報」「熱源」という、ライフラインが止まったときに真っ先に困る領域をそのまま埋めている点です。高機能な防災専用品ではなく、家にあってもおかしくない普通の道具が並んでいます。民間の被災経験者アンケートや体験談でも、上位に挙がる顔ぶれはほぼ同じです。調査の主体や時期が違っても結論が揃うということは、それだけ再現性の高い傾向だと考えていいと思います。

以下では、この調査結果を土台にしつつ、体験談で繰り返し語られるものを加えて、カテゴリ別に整理していきます。数字が出ているものは出どころを示し、そうでないものは「体験談で多く挙がる」という位置づけで書き分けます。

携帯トイレと防臭袋を積み重ねた備蓄の様子

実際に役立ったものランキング

ランキングと言っても、順位を競わせることに意味はありません。大事なのは「上位に来るものには理由がある」ということです。共通しているのは、電気・ガス・水道が止まった状態でも単独で機能し、使い道が一つに限られないものだという点です。

水・食料まわり

水は文句なしに最優先です。飲用として1人1日3リットル、3日分で9リットル、家族2人なら18リットルが目安になります。2リットルのペットボトルなら9本、ケースにして1.5ケース分です。ただし、実際に困るのは飲み水だけではありません。パナソニック ホームズが被災経験者に行った調査では、「飲料水の不足」を挙げた人が22%だったのに対し、「生活用水(トイレ・洗濯・洗い物など)の不足」を挙げた人は37%と、生活用水のほうが上回っていました。お風呂の残り湯を張ったままにしておく、という昔ながらの習慣が効いてくる場面です。

食料については、非常食セットを買うより先に、普段食べているレトルトや缶詰、乾麺を少し多めに持っておくほうが結局は続きます。これがローリングストックの考え方で、賞味期限切れを気にしなくて済むのが最大の利点です。体験談で評価が高いのは、温めなくても食べられるもの(缶詰・レトルトのおかず・シリアル・ようかん)と、水を注ぐだけで用意できるアルファ米です。慣れない味のものばかりだと、疲れているときに手が伸びません。

水は「飲用9リットル+生活用水」の二段構え。食料は非常食セットより、普段食べているものの買い足しから。

明かり・情報

仙台市の調査で最上位だった懐中電灯は、実際に使うと「一つでは足りない」ことがすぐ分かります。停電した家の中では、手に持つ明かりと、置いて部屋全体を照らす明かりの両方が要るからです。ランタン型を1つと、手元用のライトを人数分。玄関・寝室・リビングに分散して置いておくと、暗闇の中を探し回らずに済みます。ヘッドライトは両手が空くので、片付けや調理をするときに効きます。

情報面では、スマートフォンの充電手段と携帯ラジオです。停電が長引くとスマホの電池は最大の不安要素になるので、モバイルバッテリーは満充電のものを常備しておきます。容量10,000mAh程度で一般的なスマホ2回分ほどが目安です。在宅避難まで視野に入れるならポータブル電源という選択肢もありますが、これは水や明かりが揃ってからの次の段階と考えてください。

ラジオが9割超で「役に立った」とされたのは、スマホの電池を消耗させずに情報が取れるからです。通信が混み合っても影響を受けにくいという強みもあります。なお、災害情報そのものは、気象庁や住んでいる自治体の発表を確認するのが基本です。ラジオやスマホは、その一次情報にたどり着くための手段だと考えておくと選び方を間違えません。

衛生・トイレ

体験談で「もっと備えておけばよかった」と最も多く語られるのがトイレです。断水すると水洗トイレは使えず、ここは我慢が利きません。それでいて、備えている家庭は明かりや水に比べるとぐっと少ないのが実情です。

必要なのは携帯トイレ(便器にかぶせる袋と凝固剤のセット)です。1人1日5回として、家族2人・3日分で30回分。まずは1袋50回分程度のものを1つ買っておけば、最初のヤマは越えられます。あわせて、使用後の袋をまとめる防臭袋があると、室内の環境がまったく違ってきます。

水が使えない期間の衛生用品も、地味ですが効きます。ウェットティッシュ、ドライシャンプー、からだ拭きシート、歯みがきシート。それに、女性用品や常用薬は避難所や店頭で手に入りにくくなるものの代表なので、家庭ごとに必要なものを足しておいてください。ペットがいるご家庭は、ペットシーツが人用の代用にもなるので少し多めに。我が家も猫がいるので、モカのトイレ砂とシーツは切らさないようにしています。

【携帯トイレは「あとで買う」が一番危ない】

断水の直後から必要になるのに、災害報道が出た時点では真っ先に売り切れます。順番としては、水・明かりの次、非常食セットより先に用意しておく品目です。

意外な生活用品(ラップ・ポリ袋・カセットコンロ)

経験者の話で必ずと言っていいほど出てくるのが、この三つです。いずれも防災用品売り場ではなく、スーパーの日用品コーナーに売っています。

食品用ラップは、断水中にお皿にかぶせて使えば洗い物が出ません。ポリ袋は、ゴミ袋、簡易トイレの内袋、濡れたものの隔離、水の運搬と用途が広く、耐熱性のあるものなら湯せん調理にも使えます。そしてカセットコンロ。仙台市の調査で94.2%という高い数字が出たとおり、ガスや電気が止まっても温かいものが作れる意味は大きいです。ボンベは1本で強火だと1時間ほど、通常使用で2〜3時間が目安なので、6本ほど(1ケース)あれば数日分の調理をまかなえます。

ラップ・ポリ袋・カセットボンベは、普段から常に1〜2つ余分にある状態を保つ。これだけで備蓄になります。

軍手、ガムテープ(布製は書ける・貼れる・補修できる)、モバイルバッテリー、現金の小銭も、この「日用品なのに災害時の評価が高い」グループです。停電するとキャッシュレス決済も使えなくなるため、千円札と小銭を1万円分ほど分けておくと、営業している店で買い物ができます。

災害の種類で「役立つもの」は変わる

ここが、ランキングだけを見ていると見落とすところです。「役に立った」と答えた人がどんな災害に遭ったかで、必要なものは変わります。

状況主に困ること特に効くもの
地震・在宅避難停電・断水・ガス停止、室内の破損明かり、携帯トイレ、カセットコンロ、厚手のスリッパ、軍手
地震・避難所寝床の硬さ・寒さ、プライバシーエアマット、耳栓とアイマスク、羽織りもの、衛生用品
台風・大雨停電、浸水、移動できない期間モバイルバッテリー、長靴、養生テープ、数日分の食料
真夏の停電暑さ、冷蔵庫が使えない電池式扇風機、冷却シート、経口補水液
真冬の停電暖房が止まるアルミブランケット、カイロ、寝袋や毛布

台風のように事前に近づくことが分かる災害では、モバイルバッテリーや浴槽への水の確保など「直前にできる備え」が効きます。一方、地震は準備の時間がありません。ですから、買い置きで対応できるもの(水・食料・携帯トイレ・電池)は地震を想定して常に置いておき、直前に動けるものは台風のときに動く、という分け方をすると無駄が出ません。

季節の影響も大きく、真夏と真冬では中身の重みが変わります。全部を通年で揃える必要はなく、季節の変わり目にカイロや冷却シートを入れ替える程度で十分です。

「なくて困った」の声から逆算する

「役に立った」の裏返しとして、経験者が語る「なくて困った」も見ておく価値があります。役立ったものの上位は多くの人が備えていたから上位に来るわけで、そもそも誰も備えていなかったものは、ランキングに出てこないからです。

困ったものの筆頭は、やはりトイレです。仮設トイレの到着には時間がかかることがあり、名古屋大学の研究では、東日本大震災の発生から3日以内に仮設トイレが行き渡った自治体は3割強にとどまったと報告されています。つまり、最初の数日は自分の家の分は自分でまかなう前提が要ります。

次に多いのが生活用水、そしてスマホの電源です。あとは細かいものほど盲点になりやすく、電池のサイズ違い(ライトは単三なのに買い置きは単四だった)、常用薬とお薬手帳の控え、眼鏡やコンタクトの予備、現金、そして身分証のコピー。どれも、なくても命に関わらないけれど、あると生活の質がはっきり変わるものです。

電池は、家にあるライトやラジオの規格を実際に確認してから買い足してください。サイズ違いで使えなかった、という声は毎回出ます。

缶詰やレトルトを回して使う家庭の備蓄棚

役立ったものを自分の備えに落とし込む

調査結果を眺めるだけでは、家の備えは1ミリも進みません。ここまでの内容を、実際の買い物と置き場所に変える手順にしておきます。

STEP
1. 家にあるものを数える

まず買い物に行く前に、家のライト・電池・カセットボンベ・ポリ袋・水の本数を数えます。「思ったよりある」ものと「ゼロだった」ものがはっきりします。

STEP
2. ゼロだったものだけ買う

携帯トイレ、モバイルバッテリー、ラジオあたりがゼロになりがちです。ここだけ埋めれば、上位陣はおおむね揃います。

STEP
3. 食料は普段の買い物で1つ多く買う

非常食コーナーに行く必要はありません。レトルトや缶詰を、いつもの買い物で1つずつ多めに。使ったら足す、を繰り返します。

STEP
4. 置き場所を分散させる

玄関に持ち出し用、キッチンに食料と水、寝室にライトとスリッパ。1か所にまとめると、その部屋に入れなかったときに全部使えなくなります。

STEP
5. 年に2回、日を決めて点検する

9月1日の防災の日と、年末の大掃除のタイミングが分かりやすいです。電池の残量と賞味期限を見て、入れ替えるだけで構いません。

この手順で、我が家の場合は買い足しが1万円台後半で収まりました。携帯トイレ50回分、モバイルバッテリー、ランタン、カセットボンベ1ケース、防臭袋。残りはもともと家にあったものです。ゼロから防災セットを買うより安く済むことが多いので、まずは数えるところから始めてみてください。

何を優先すべきかをもう少し詳しく知りたい方は本当に必要な防災グッズの優先順位を、買い物メモとして使えるものが欲しい方は家庭の防災グッズリストをあわせてどうぞ。

完璧に揃えようとすると、たいてい途中で止まります。水と明かりと携帯トイレ、それにカセットコンロ。この4つが家にあるなら、家庭の備えとしてはもう合格圏です。あとは季節ごとに少しずつ足していけば間に合います。

よくある質問

経験者が一番に挙げるものは?

明かりです。仙台市の調査でも懐中電灯・ろうそくが96.9%で最上位でした。停電した夜の家の中は想像以上に暗く、割れたガラスも見えません。ただし「一番に挙げられる=それだけ備えている人が多かった」という側面もあります。備えている人が少ない携帯トイレのようなものは、ランキングでは目立たなくても優先度は高いと考えてください。

逆にいらなかったものは?

使わないまま終わりやすいのは、中身を確認していない市販の防災セット、重すぎて持ち出せないリュック、使い方を練習していない道具です。特に、家族の人数や体力に合っていない大容量セットは、いざというとき玄関から動かせません。この点は編集部で実際に買って使ってみた記録を買ったけれど使わなかった防災グッズにまとめています。

防災セットと自分で揃えるのはどちらがいい?

すでに家にライトやポリ袋、カセットコンロがあるなら、足りないものだけを自分で買うほうが安く、中身も把握できます。逆に、何もない状態から始める方や、時間をかけたくない方はセットを土台にして、携帯トイレと自分の常用薬・眼鏡の予備を足すのが早道です。どちらを選んでも、買った直後に一度中身を全部出して確認する作業だけは省かないでください。

なお、避難のタイミングや避難先については、気象庁や自治体が出す情報が判断のもとになります。ハザードマップと指定避難所は、お住まいの自治体の公式サイトで確認してください。

本記事の数値は、仙台市「東日本大震災に関する市民アンケート調査」(2012年3月)ほか公表資料に基づきます。製品の価格や在庫は変動します(2026年8月時点の情報です)。

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