災害時の連絡手段を家族で決める|はじめての防災・第8回(最終回)

冷蔵庫に貼られた家族の緊急連絡先メモ

「はじめての防災」も今回で最終回です。ここまでは水や食料、明かり、情報の取り方といった「物」の話が中心でした。最後にお伝えしたいのは、お金のかからない備え——災害時の連絡手段と集合場所を、家族であらかじめ決めておくことです。この記事では、171とweb171の使い分け、集合場所の決め方、子どもが学校にいるときの動き、そして決めたことを紙に落として貼るところまでを、今日30分で終わる手順としてまとめます。

目次

最終回は「物」ではなく「約束」の備え

大きな地震が起きたとき、多くの人がまず取るのはスマホです。そして、電話がつながらないことに気づきます。災害時は安否確認の通話が一斉に集中するため、通信各社が通話を制限することがあります。設備が無事でも、電話は「つながらないもの」として考えておいたほうが落ち着いていられます。

ここで効いてくるのが、事前の約束です。連絡がつかない時間帯に何をするかを先に決めておけば、探し回らずに済みます。避難所を何か所も回って家族を探す、という行動そのものが災害時にはリスクになります。

しかもこの備えは、費用がゼロです。水や電源は買い足しが必要ですが、約束は話し合うだけで完成します。連載の最後にこのテーマを置いたのは、いちばん後回しにされやすくて、いちばん効くからです。

災害用伝言ダイヤルを試すための電話とメモ

災害時の連絡手段:つながらない前提で二重に決める

連絡手段は、ひとつに賭けないことが基本です。電話が通じないときに何を使うか、それも使えないときにどうするか。この二段構えを決めておきます。

そして、連絡手段の話には必ずセットで決めるべきことがあります。「連絡がつかなかったら、どこで会うか」です。手段だけ決めても、通信そのものが復旧しなければ意味がありません。手段は次の見出しから、場所はその後で扱います。

災害用伝言ダイヤル171と災害用伝言板

電話がつながりにくいときの受け皿として用意されているのが、NTTの災害用伝言ダイヤル「171」と、インターネット版の「web171」です。どちらも大きな災害の発生時に運用が開始され、自宅の固定電話番号や携帯番号を「鍵」にして、伝言を預けたり聞いたりできます。

171は電話をかけて音声で吹き込む方式で、NTT東日本の案内によると、伝言は1件30秒以内、1つの電話番号につき1〜20件を預かる仕組みです(NTT東日本|災害用伝言ダイヤル(171)ご利用方法)。web171は文字で登録するタイプで、伝言の蓄積は最大20件、保存期間は最大6か月とされています。両者は連携していて、web171に登録した文字の伝言を171側で音声として聞くこともできます。

 171(災害用伝言ダイヤル)web171(災害用伝言板)
使うもの電話(固定・携帯・公衆電話)スマホ・パソコン(インターネット)
伝える形音声(1件30秒以内)文字
向いている人スマホが苦手な高齢の家族通話が混んでいるとき・詳しく伝えたいとき
鍵になる番号あらかじめ家族で決めた1つの電話番号(自宅の固定電話番号が分かりやすい)

大事なのは、どの電話番号を「家族の伝言箱」にするかを先に決めておくことです。父の携帯、母の携帯とばらばらに登録すると、聞く側がどこを探せばいいか分からなくなります。自宅の固定電話番号か、代表者の携帯番号をひとつ決めて、全員がそこへ入れる・そこを聞く。これだけで迷いが消えます。固定電話がないご家庭も増えましたので、その場合は代表の携帯番号で構いません。

そして171は、ぶっつけ本番で使おうとすると案外もたつきます。ガイダンスに沿って番号を押していく操作なので、一度でも体験しておくと違います。体験利用は、毎月1日と15日、正月三が日(1月1日〜3日)、防災週間(8月30日〜9月5日)、防災とボランティア週間(1月15日〜21日)に提供されています。

STEP
1. 家族で「鍵にする電話番号」を決める

自宅の固定電話番号、なければ代表者の携帯番号をひとつ選び、全員に共有します。

STEP
2. 体験利用日に171へかける

電話から171をダイヤルし、ガイダンスに従って「1」(録音)を押します。

STEP
3. 決めた電話番号を市外局番から入力する

携帯番号を鍵にする場合はその番号をそのまま入力します。

STEP
4. 30秒以内で伝言を吹き込む

「無事です、〇〇小学校にいます」のように、安否と居場所だけを短く。

STEP
5. 別の家族が同じ番号で再生してみる

171にかけて「2」(再生)を押し、同じ電話番号を入力して聞こえるか確かめます。

これを一度やっておけば、当日は迷いません。171とweb171の細かい操作や、うまく聞けないときの対処は、災害用伝言ダイヤル171とweb171の使い方の記事にまとめています。

LINEやSNSが使えるとき・使えないとき

実際のところ、近年の災害でいちばん使われている連絡手段はLINEなどのメッセージアプリです。通話に比べてデータ量が小さく、電波が弱くても届きやすいという性質があります。既読がつくだけで無事が分かる、というのも大きな利点です。

ただ、これは「携帯の電波が届いていて、スマホの充電が残っている」ことが前提です。基地局が停電で止まれば圏外になりますし、非常用電源で動いていても長くは持ちません。停電のなかでスマホの残量が減っていく時間は、想像よりずっと心細いものです。

LINEは第一手段、171・web171は第二手段。両方を家族で決めておくのが二重化の意味です。

もうひとつ、我が家で決めているのが「先に安否を送る役」です。全員が同時に発信すると誰が誰に伝えたか分からなくなるので、まず一人が家族グループへ「無事・場所・次の連絡予定」を送り、他はそれに返信する形にしています。文面は短くて構いません。長い説明はあとから電波が安定してからで十分です。

【デマを広げない約束もセットで】

災害時はSNSに未確認の情報が大量に流れます。家族間の連絡と、外から入ってくる情報は分けて考えてください。転送する前に発信元を見る、公的機関が出していない情報は家族グループに流さない。この二つを決めておくだけで、家族が振り回されずに済みます。

集合場所に印をつけた近所の避難地図

集合場所と避難先を決めておく

連絡手段が全部だめだったとき、最後に効くのが場所の約束です。ここは3つに分けて決めます。

ひとつ目は、家のすぐ外。火災や倒壊で家から飛び出したときに集まる場所で、向かいの駐車場の角、近所の公園の入口など、徒歩30秒で行ける具体的な一点にします。二つ目は、地域の指定避難所。三つ目は、自宅周辺が広範囲で被災したときに向かう遠方の親戚や知人の家です。「近く・地域・遠く」の三段で決めておくと、どの規模の災害でも合流できます

ここで一点だけ、混同しやすい言葉があります。「避難場所」と「避難所」は別のものです。避難場所は火災や津波から命を守るために一時的に逃げる広場や高台、避難所は建物が使えなくなった人が寝泊まりする施設を指します。地図で確認するときは両方を見ておく必要があります。違いは避難場所と避難所の違いで詳しく整理しています。自分の地域でどこが指定されているかは、お住まいの自治体のハザードマップで確認してください。

集合場所を決めたら、実際に家族で歩いてみてください。地図上では近くても、途中に川や跨線橋があると通れなくなることがあります。

子どもの動きを決める:学校・通学路にいるとき

お子さんのいるご家庭では、ここがいちばん心配な部分だと思います。まず前提として、学校にいる時間に災害が起きた場合、多くの学校では子どもを校内で待機させ、保護者への引き渡しを行う手順が決まっています。迎えに行くべきか待つべきかは、通っている学校の引き渡しルールで決まりますので、入学時に配られた資料をもう一度見ておいてください。学校によって、引き渡し場所も、誰に引き渡すかの登録方法も違います。

決めておきたいのは、次の三つです。学校にいるときは大人が迎えに行くまで動かないこと。登下校の途中なら、家と学校のどちらが近いかで戻る先を決めておくこと。そして、鍵を持っていて家に誰もいない場合にどうするか。この三つ目が抜けやすく、玄関の前で長時間待たせてしまうことになりがちです。

祖父母の家や近所の決まった家など、「大人がいる、行ってよい場所」をひとつ決めて、そこの大人にも伝えておくと安心して待てます。低学年のお子さんには、通学かばんに家族の連絡先と集合場所を書いたカードを入れておく方法もあります。スマホを持たせていない家庭では、これが唯一の手がかりになります。通学時間帯の備えについては子どもの通学路の備えで詳しく扱っています。

決めたことは書いて貼る:冷蔵庫の防災メモ

家族会議で決めても、半年経つと誰も覚えていません。これは意志の問題ではなく、思い出す機会がないからです。だから紙に書いて、毎日目に入る場所に貼ります。

我が家では冷蔵庫の側面にA4を1枚貼っています。書いてあるのは、伝言に使う電話番号、家族それぞれの携帯番号、家のすぐ外の集合場所、指定避難所の名前、遠方の親戚の連絡先、そしてかかりつけ医と常備薬の名前です。スマホが壊れたり充電が切れたりすると、家族の電話番号すら分かりません。この紙は、その時のための保険です。

同じものを縮小コピーして、財布と非常用持ち出し袋にも1枚ずつ入れています。ラミネートまでする必要はなく、クリアファイルに入れるかテープで留める程度で十分です。手書きで構いません。きれいに作ろうとして手が止まるくらいなら、今日ペンで書いてしまうほうがずっと役に立ちます。

ペットがいるご家庭は、ここに一行足してください。うちには黒猫のモカがいますので、「モカのキャリーは寝室クローゼット・フードは玄関収納」と書いてあります。慌てているときほど、どこに何があるか飛びます。高齢の家族がいる場合も同じで、常用している薬の名前とお薬手帳の置き場所を書いておくと、避難先での相談がずいぶん楽になります。

年に一度見直す:防災の日をきっかけに

備えの中身は変わります。子どもの進学で通学路が変わり、携帯番号が変わり、勤め先が変わる。決めた約束も、そのままでは古くなっていきます。

見直しの日は、9月1日の防災の日に固定してしまうのが続けやすい方法です。ちょうど防災週間(8月30日〜9月5日)は171とweb171の体験利用ができる期間でもあるので、メモの更新と171の練習を同じ日にまとめてしまえば、年に一度30分で済みます。テレビでも防災の話題が増える時期ですから、家族に切り出しやすいという利点もあります。

あわせて、備蓄食の賞味期限、電池の残量、ポータブル電源の充電もこの日に確認します。点検する項目は防災の日のチェックリストにまとめてありますので、印刷して上から順に見ていけば終わります。

年に一度で十分です。毎月点検しようと決めた家庭ほど、三か月目でやめてしまいます。続く仕組みのほうが、完璧な計画よりも強いものです。

まとめ|全8回の振り返り

全8回を通してお伝えしてきたのは、防災は一気に完成させるものではない、ということでした。水と食料から始めて、明かりと電源、トイレ、持ち出し袋、家の中の安全、情報の取り方、そして今回の家族の約束。順番に一つずつ足していけば、気負わずにここまで来られます。

そして最終回の内容は、この連載でいちばんお金がかからず、いちばん効きます。伝言に使う電話番号をひとつ決める、集合場所を三段で決める、紙に書いて冷蔵庫に貼る。今日できるのはこの三つだけで、それで十分な出発点になります

災害情報そのものとの向き合い方は第7回・災害情報はどこで確認するかで扱いました。連載全体の流れをもう一度たどりたい方は、第1回・はじめての防災 全体像から読み返してみてください。

ここまでできていれば、あとは年に一度の見直しで維持できます。防災グッズをこれ以上増やす前に、まずは家族と10分話す時間を取ってみてください。

171は災害が起きればいつでも使えますか?

いいえ、常時使えるサービスではありません。大きな災害が発生したときにNTTが運用を開始し、テレビ・ラジオや公式サイトで告知されます。使えるようにするための事前登録は不要ですが、練習は体験利用日(毎月1日・15日、正月三が日、防災週間、防災とボランティア週間)に行います。

スマホしか持っていなくても171は使えますか?

使えます。携帯電話からも171にダイヤルでき、鍵にする番号として携帯電話番号を登録することもできます。ただし電池切れに備えて、文字で使えるweb171も家族で共有しておくと確実です。

遠くに住む親とも決めておいたほうがいいですか?

はい。被災地内は電話が集中してつながりにくくなる一方、遠方とは通じることがあります。遠方の親戚を「中継役」に決めて、家族それぞれがそこへ安否を伝え、状況を集約してもらう方法が使えます。

各サービスの運用状況や体験利用の実施予定は変わることがありますので、直前の情報はNTT東日本・NTT西日本の公式サイトでご確認ください。

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