地震や豪雨の報道を見て「そろそろ家の備えを見直さないと」と思ったものの、何から手をつければいいのか分からない——という声をよくいただきます。この記事では、備えを続けるための優先順位の考え方と、自宅に合う備えを知るための3つの質問、そして全8回で何をどの順に揃えるかの全体像をお伝えします。読み終えたら、今日やることはたったひとつです。
「全部やろう」が挫折のもと 順番を決めれば防災は続く
防災を始めようとして最初にやりがちなのが、防災グッズの「必要なもの100選」のような一覧を開いて、上から順に買い揃えようとすることです。これがいちばん続きません。品目が多すぎて予算も置き場所も足りず、途中で手が止まり、半端に買ったものが押し入れの奥で期限切れになる。この流れを、私は何度も見てきました。
備えが続かない理由は、やる気の問題ではありません。「全部やる」という目標設定そのものに無理があるからです。防災用品は品目が多く、しかも家庭ごとに必要なものが違います。一覧をそのまま自分の家に当てはめると、必ずどこかで「これ、うちに要る?」という迷いが出ます。迷いが出たところで作業は止まります。
逆に、順番さえ決まっていれば話は簡単です。今日はこれ、次はこれ、と一段ずつ登っていけばいい。一段目が済めば、その時点で「何もしていない状態」よりは確実に安全になっています。途中で止まったとしても、大事なものから順に手をつけているので、無駄になりません。
防災は「全部揃える」ではなく「大事なものから順に一段ずつ」で考えると続きます。
覚えておく考え方はひとつ:命→けが→生活の順
順番を決めるとき、私が基準にしているのはとてもシンプルな考え方です。命を守るもの → けがを防ぐもの → 生活を続けるもの、この順番で手をつけます。
いちばん上にくる「命」は、水と食料です。人は水が飲めなければ数日ももちません。次の「けが」は、家の中の安全対策です。大きな地震では、家具の転倒や落下物、割れたガラスによるけがが被害の大きな部分を占めます。けがをすれば避難も片づけもできなくなるので、備えの効果としては非常に大きい部分です。そして最後が「生活」——トイレ、明かり、電源、情報といった、生き延びたあとの数日から数週間を支えるものです。
この順番で並べると、意外なものが上位に来ることに気づきます。たとえば携帯トイレ。「グッズ」の枠で考えると後回しになりがちですが、断水すると水洗トイレは最初の1日で使えなくなります。備えの中でも、実際に困る速さでいえばかなり上位です。逆に、多機能ラジオやサバイバル用品のような「いかにも防災らしい」ものは、優先順位としてはずっと下になります。
この考え方をひとつ持っておくと、防災グッズ売り場で迷ったときにも「これは命か、けがか、生活か」と自分で判断できるようになります。リストを暗記する必要はありません。

自分の家に合う備えを知る3つの質問
優先順位の考え方が決まったら、次は「自分の家では何がどれくらい必要か」を知る番です。ここを飛ばして一般論のリストを買うと、使わないものが増えます。次の3つに答えるだけで、必要なものの輪郭がはっきりします。
①住まいの災害リスクは?ハザードマップを開く
まず確認したいのが、自宅がどの災害に弱いかです。同じ「防災」でも、浸水しやすい低地と、揺れやすい地盤と、土砂災害の警戒区域では、やるべきことが変わります。浸水想定の深い場所なら、備蓄を1階に置くのは避けて2階に上げる判断が要りますし、そもそも在宅避難が難しく「早めに逃げる」が前提になる地域もあります。
確認は、国土交通省のハザードマップポータルサイト(disaportal.gsi.go.jp)が便利です。全国の災害リスク情報を一枚の地図に重ねて見られる「重ねるハザードマップ」と、自治体が公開している詳細な地図を探せる「わがまちハザードマップ」の2つが用意されています。会員登録は不要で、スマホからでも住所を入れれば自宅周辺の状況が見られます。
使い方や見方のポイントは、ハザードマップの見方を解説した記事で詳しくまとめています。今日はまず開いてみるだけで十分です。
②誰と暮らしている?家族構成で備えは変わる
次に、家に誰がいるか。備蓄の量は人数分で計算しますが、変わるのは量だけではありません。
乳幼児がいればミルクやおむつ、離乳食が必要になり、これは代わりのきかない品目です。高齢の家族がいる場合は、常用薬のストックとお薬手帳の控え、それに固いものが食べにくい方向けの食事の用意が要ります。私の家には5歳の猫がいますが、ペットフードとトイレ砂は支援物資として届く見込みが薄いので、人間の分と同じかそれ以上の日数を自前で持つようにしています。
代わりがきかないもの(薬・ミルク・ペットフード・眼鏡)は、一般的な備蓄リストより多めに。
③昼間、家族はどこにいる?
3つめは見落とされがちですが、とても大事な質問です。平日の昼間に災害が起きたとき、家族全員が家にいる可能性は高くありません。勤め先、学校、外出先——ばらばらの場所にいるのがふつうです。
そうなると、備えは自宅だけでは足りません。職場に置く最低限のもの(履き慣れた靴、飲料水、モバイルバッテリー)や、徒歩で帰れる距離かどうかの見当、そして連絡が取れないときにどうするかの取り決めが必要になります。これは第8回で扱いますが、この段階では「家の備え=防災のすべてではない」とだけ頭の隅に置いておいてください。

この講座の全体地図:8つのステップ
ここからが本題の全体像です。「はじめての防災」は全8回で、命→けが→生活の順に一段ずつ進みます。第1回である今回は地図を眺める回なので、買うものはありません。
第2回 水と食料を3日分
最初の一段は水と食料です。農林水産省は家庭備蓄について、最低3日分、できれば1週間分を勧めています。水は飲用と調理用で1人1日3リットルが目安なので、3日分なら1人9リットル。まずはここからです。買い置きを普段の食事で消費して補充する「ローリングストック」なら、特別な非常食を大量に買い込まなくても回せます。詳しくは第2回・水と食料の備蓄で。
第3回 持ち出し袋をつくる
在宅避難が基本とはいえ、家が危険なときは出る必要があります。持ち出し袋は「詰め込む」より「担いで歩ける重さに収める」ほうが難しい部分です。何を入れて何を諦めるかの判断を第3回・持ち出し袋でまとめます。
第4回 トイレの備え
断水や排水管の損傷で、水洗トイレは早い段階で使えなくなります。しかも我慢がききません。携帯トイレの必要数と選び方、置き場所を第4回・トイレの備えで扱います。備蓄の中でいちばん軽視されて、いちばん後悔されるのがここです。
第5回 停電への備え
明かりと電源です。まずは各部屋に一つずつの灯りから。そのうえで、スマホの充電をどう確保するか、モバイルバッテリーで足りるのか、ポータブル電源まで要るのかを第5回・停電への備えで判断基準ごと整理します。
第6回 家の中を安全に
ここが「けが」の段です。家具の固定、ガラスの飛散防止、寝室の配置。お金をかけずにできることが多く、効果も大きいのに後回しにされがちな部分を第6回・家の中の安全対策で。
第7回 情報の備え
災害時にどこを見れば正しい情報が得られるか、平時のうちに決めておく回です。気象庁や自治体の一次情報をどう受け取るか、SNSの情報とどう距離を取るかを第7回・情報の備えで扱います。
第8回 家族で決めておくこと
最後は、ものではなく取り決めです。集合場所、連絡手段、災害用伝言ダイヤルの使い方。10分の話し合いで済むのに、やっていない家庭が多い部分を第8回・家族で決めておくことでまとめます。
8回と聞くと長く感じるかもしれませんが、1回あたりの作業は買い物ひとつぶんか、休日の1〜2時間程度です。月に1つずつ進めても、半年強で一通り整います。
今日やるのはひとつだけ:ハザードマップを10分ながめる
全体像が見えたところで、今日の宿題です。買い物はしません。ハザードマップで自宅を見るだけです。
ハザードマップポータルサイト(disaportal.gsi.go.jp)にアクセスし、「重ねるハザードマップ」を選びます。
検索窓に自宅の住所を入力して、地図を自宅周辺まで拡大します。
洪水・土砂災害・高潮・津波の表示を順に切り替え、自宅に色がついているかを確認します。色がついていたら、凡例で想定される浸水の深さも見ておきます。
自宅から最寄りの指定緊急避難場所を表示し、そこまでの道のりを地図でたどります。途中に川や大きな坂があるかも見ておきます。
「浸水想定0.5〜3m/避難場所は◯◯小学校・徒歩8分」のように、分かったことをスマホのメモに1行だけ残します。
10分で終わります。そしてこの10分が、以降の8回すべての判断の土台になります。浸水想定がある家なら備蓄は2階へ。土砂災害警戒区域なら在宅避難より早めの立ち退き避難を前提に持ち出し袋を厚くする。どちらも該当しないなら、揺れ対策と在宅避難の備えに力を配分する——といった具合です。
一次情報の確認先を決めておく
避難や安全行動そのものの判断は、気象庁の発表と、お住まいの自治体が出す避難情報に従ってください。ハザードマップは「平時に自宅のリスクを知る」ための道具で、災害時のリアルタイムな判断はこれらの公的機関の情報が優先されます。
まとめ|次回は「水と食料を3日分」
今回お伝えしたのは3つです。防災は全部を一度に揃えようとすると挫折すること。順番は命→けが→生活で決まること。そして、自分の家に何が必要かはハザードマップと家族構成と昼間の居場所で決まること。
防災は、やろうと思えばいくらでも上があります。備蓄を1か月分に増やすことも、家全体の耐震補強も、突き詰めればきりがありません。でも、ふつうの家庭で現実に効くのは、最初の数段です。8回分を一通り終えたら、あとは年に一度の点検で維持する——その程度で、家庭の備えとしては十分に働きます。完璧を目指して息切れするより、そのほうがずっと長持ちします。
次回は最初の一段、水と食料を3日分です。何をどれだけ、いくらで揃えられるかを実額で見ていきます。
製品の価格や仕様は変わることがあるため、購入前には販売ページで最新の情報をご確認ください。
