テレビの画面下に「避難指示」の帯が流れたとき、何をどこまですればいいのか、とっさに判断できる方は多くありません。避難指示は市区町村が出す警戒レベル4の情報で、意味は「危険な場所にいる人は全員避難」です。この記事では、廃止された避難勧告との違い、緊急安全確保(レベル5)との段差、避難指示が出たときにまずやること、そして発表の確認先までを順に整理します。
避難指示とは:警戒レベル4で出る「全員避難」の合図
避難指示は、災害対策基本法にもとづいて市区町村長が出す避難情報です。国が定める5段階の警戒レベルではレベル4にあたり、危険な場所にいる人が全員、そこから離れるための情報です。気象庁が出す警報とは発表元が違い、避難指示を出すかどうかを判断するのは、あくまでお住まいの市区町村になります。
ここで大切なのは、「全員避難」の全員が、市区町村の全住民という意味ではないことです。対象になるのは、ハザードマップで浸水想定区域や土砂災害警戒区域に入っている場所、川や崖のそばなど、危険な場所にいる人です。避難指示は地区や町丁目を区切って出されるのが普通ですから、まず見るべきは「自分の住所が対象に入っているか」になります。
警戒レベルの全体像は次のとおりです。
| 警戒レベル | 情報の名前 | とる行動 | 出すところ |
|---|---|---|---|
| 5 | 緊急安全確保 | 命を守る最善の行動 | 市区町村 |
| 4 | 避難指示 | 危険な場所から全員避難 | 市区町村 |
| 3 | 高齢者等避難 | 高齢者・障害のある方などは避難 | 市区町村 |
| 2 | 注意報など | 避難行動の確認 | 気象庁 |
| 1 | 早期注意情報 | 心構えを高める | 気象庁 |
レベル3の「高齢者等避難」は、避難に時間がかかる方に先に動いてもらうための情報です。高齢の家族と暮らしている方や、ペットを連れて動く必要がある方は、レベル4を待たずレベル3で動き出す前提で考えておくと落ち着いて出られます。我が家も猫がいるので、キャリーを出すのはレベル3の時点、と決めています。
避難勧告はもうない 一本化された経緯
かつては警戒レベル4に「避難勧告」と「避難指示(緊急)」の2つがあり、勧告が先、指示が後、という段取りでした。この2段構えが、逃げ遅れの原因になっていました。勧告の時点で「まだ指示は出ていないから大丈夫」と受け取る人が多く、指示が出たころには外が危険で動けない、という事例が繰り返されたためです。
そこで災害対策基本法が改正され、2021年5月20日から避難勧告は廃止され、警戒レベル4は「避難指示」に一本化されました。避難勧告のタイミングで避難指示が出るようになった、と理解するのが実態に近い変化です。以前より早い段階で避難指示が出るようになったわけですから、「昔の避難指示より1段階早い」と思っておくくらいがちょうどよいと思います。
いま「避難勧告」という言葉を聞いたら、それは古い情報か、正式な避難情報ではない表現です
この改正から5年が経ち、制度としてはすっかり定着しました。ただ、ご家族のなかに「勧告が出てから考える」という感覚のまま止まっている方がいるかもしれません。避難のタイミングは家族でそろえておかないと、当日ひとりだけ動かない人が出ます。

避難指示が出たら何をする?
避難指示は「今すぐ危険な場所から離れてください」という意味ですが、実際の行動は、いま自分がどこにいるかで変わります。まず確かめるのは、自分の場所が対象区域かどうか、そしてその場所が安全かどうかの2点です。ここを飛ばして、対象外の地域の人まで一斉に避難所へ向かうと、道路が混み、本当に避難が必要な人が動けなくなります。
危険な場所にいる人がとる行動
浸水想定区域や土砂災害警戒区域にお住まいの方、川や崖のそばの方、地下や低い土地にいる方は、指定された避難場所へ移動します。避難先は市区町村が開設した避難所だけではありません。浸水しない地域にある親戚・知人の家、安全な場所のホテルも立派な避難先です。感染症のことがあってから、この分散避難の考え方は自治体側も推奨するようになりました。
動く手順は、シンプルにこれだけです。
市区町村の発表で、自分の住所(町丁目)が避難指示の対象に入っているかを見ます。ハザードマップ上の位置も合わせて確認します。
避難所か、親戚・知人宅か、ホテルか。家族が別々の場所にいる場合は、どこへ向かうかを先に共有します。
薬・お薬手帳・眼鏡・スマホと充電器・現金・保険証。ペットがいる家庭はキャリーとフード、常備薬も。
通電火災を防ぐため、時間に余裕があればブレーカーを落とします。余裕がなければ省いて、避難を優先します。
ためらう時間がいちばん危険です。持ち出し袋の中身を当日そろえようとすると、それだけで15分、20分と過ぎていきます。玄関に置いてあるものをつかんで出られる状態にしておくのが、この日のための準備です。
水がすでに道路に出ている状況で歩いて避難するのは危険です。動けないと判断したら、無理に外へ出ず次の項目へ進んでください
在宅避難でいい場合もある
避難指示が出ても、家にとどまる判断が適切な場合があります。国のガイドラインでも、ハザードマップ上で自宅が危険な場所に入っておらず、建物が安全であれば、そのまま自宅にとどまることが避難行動のひとつとして示されています。避難=避難所へ行くこと、ではありません。
判断の目安は、洪水なら自宅が浸水想定区域の外にあるか、想定される浸水の深さより上の階で過ごせるか、水がひくまでの数日間を家の中で過ごせるか。土砂災害なら、土砂災害警戒区域の外にあるかどうかです。ただし、崖のそばの建物や、木造の1階で寝ている場合は在宅の判断をしないでください。
在宅避難ができるかどうかは、災害が起きてからではなくハザードマップで先に確かめておく
在宅避難を選ぶなら、停電・断水が数日続く前提での備えが要ります。水の量、トイレ、明かり、情報の取り方を含めた具体的な進め方は在宅避難のやり方まとめで整理しています。
緊急安全確保(レベル5)との違い
レベル5の緊急安全確保は、避難指示の「もっと強い版」ではありません。すでに災害が発生しているか、発生が差し迫っていて、安全な避難がもう間に合わない段階で出る情報です。国のガイドラインでも、レベル5とレベル4以下のあいだには意図的に区切りが設けられ、「警戒レベル4までに必ず避難」と示されています。
もうひとつ知っておきたいのは、緊急安全確保は必ず出るとは限らないことです。夜間の急な増水や、状況の把握が追いつかない場合、レベル5が出ないまま被害が起きることもあります。レベル5を待つ、という考え方自体が成り立ちません。
レベル5が出たとき、あるいは避難が間に合わないとき
外に出るより建物の中のほうが安全な場合があります。上の階へ移動する、崖と反対側の部屋へ移る、窓から離れる。命を守るために、その場でできる最善を選びます。判断に迷う状況なら、消防・警察や自治体の指示に従ってください。
逆にいえば、レベル4の避難指示は「まだ安全に動ける時間が残っている」という合図でもあります。この時点で動けるかどうかが、その後を大きく分けます。

避難指示はどこで発表を確認する?
避難指示を出すのは市区町村ですから、いちばん確実なのは市区町村からの発信です。防災行政無線、緊急速報メール(エリアメール)、自治体の公式サイトやSNS、防災アプリ、テレビのデータ放送、ラジオ。このうち緊急速報メールは、対象エリアにいる携帯電話へ自動的に届きます。
ただし、雨や風が強いときの防災行政無線は、家の中ではほとんど聞き取れません。無線だけを頼りにするのは避けて、スマホの通知と、テレビかラジオの二本立てにしておくのが実際的です。停電すればテレビは映りませんから、電池式のラジオとモバイルバッテリーが手元にあるかどうかが効いてきます。
なお、2026年5月末から気象庁の防災気象情報の体系が変わり、大雨・河川氾濫・土砂災害・高潮の情報名が警戒レベルに対応した形に整理されました。レベル4相当の情報は「氾濫危険警報」のように「危険警報」という名前で出ます。名前を聞き慣れなくても、レベル4は避難指示、という対応関係は変わっていません。どの情報がどのレベルにあたるかの見方と、普段からの確認先の決め方は災害情報の確認先まとめにまとめています。
SNSで流れてくる避難指示の情報は、他の地域のものや過去のものが混ざります。発信元が自治体・気象庁・報道機関のいずれかであることを確かめてから動いてください。
よくある質問
避難指示に従わないと罰則はある?
避難指示そのものに罰則はありません。災害対策基本法にもとづく避難指示は、従わなかったことを理由に処罰される仕組みにはなっていないからです。強制的に連れ出す権限もありません。
ただし、これとは別に「警戒区域」の設定という措置があり、こちらは立入りの制限・禁止に違反すると罰則の対象になります。火山の噴火や大規模な災害のあとに設定されるもので、避難指示とは別の仕組みです。
罰則がないからこそ、避難するかどうかは自分と家族の判断に委ねられています。避難指示は、市区町村が「ここまで危険が高まった」と判断して出した情報だと受け止めてください。
夜間や豪雨の真っ最中に出たらどうする?
暗い中の移動、すでに水が出ている道路の移動は、それ自体が危険です。過去の水害では、避難の途中で被災した例が少なくありません。外の状況を見て、安全に移動できないと判断したなら、屋内でより安全な場所へ移る(垂直避難)を選んでください。
だからこそ、夜に大雨が予想される日は、明るいうちに動いておくのがいちばんの対策になります。夕方の時点で警戒レベル3が出ていたり、翌朝にかけて雨のピークが来ると分かっていたりするなら、日が暮れる前に避難先へ移る。この判断ができると、夜中の一番苦しい選択をしなくて済みます。
まとめ|前回・次回
避難指示は警戒レベル4で市区町村が出す、危険な場所からの全員避難の合図です。2021年に避難勧告が廃止されて一本化され、以前より早いタイミングで出るようになりました。レベル5の緊急安全確保は避難が間に合わない段階の情報なので、待つものではありません。そして、自宅が危険な場所の外にあるなら、在宅避難という選択もあります。
当日にできることは、実はそう多くありません。避難指示が出てから調べ始めずに済むよう、平時のうちに決めておきたいのは、自宅が危険な場所かどうか、避難するならどこへ行くか、情報はどこで見るか。この3つがそろっていれば十分です。全部を完璧に準備しようとしなくて構いません。
警戒レベル1から5までの意味と、それぞれで何をするかは警戒レベルの見方で解説しています。自宅が対象区域かどうかの確かめ方はハザードマップの使い方へ。避難情報の詳しい定義や最新の運用は、内閣府防災「避難情報に関するガイドライン」と気象庁のサイトでご確認ください。
