テレビの速報で「南海トラフ地震臨時情報」という言葉が流れたとき、何をすればいいのか迷った方は多いと思います。この記事では、臨時情報の3つのキーワード(調査中・巨大地震注意・巨大地震警戒)の違い、それぞれで変わる行動、呼びかけが続く期間、そして2024年に実際に発表されたときの経緯を整理します。結論を先にお伝えすると、多くの家庭にとってやることは「新しく何かを始める」ことではなく、ふだんの備えの点検 です。
南海トラフ地震臨時情報とは:気象庁が出す「注意の呼びかけ」
南海トラフ地震臨時情報は、南海トラフ沿いで大きな地震が起きる可能性が「ふだんと比べて相対的に高まった」と考えられるときに、気象庁が発表する情報です。2019年5月から運用が始まりました。
大事なのは、これが地震の予知ではないという点です。何日の何時にどこで揺れる、と当てる情報ではありません。過去に起きた大地震の並び方(片方の領域で起きた後、もう片方が続いたケースがある)をもとに、「いつもよりは続けて起きる確率が上がっている期間ですよ」と知らせる、注意の呼びかけだと考えるとつかみやすくなります。
臨時情報は予知ではなく、「相対的に高まった可能性」を伝えて備えの再確認を促す情報です。

3つの種類:調査中・巨大地震注意・巨大地震警戒
臨時情報には、後ろに付くキーワードが4つあります。最初に出る「調査中」と、調査結果として出る「巨大地震警戒」「巨大地震注意」「調査終了」です。名前が似ていて紛らわしいので、まず表で全体像をつかんでください。
| キーワード | 出るタイミング | 意味 |
|---|---|---|
| 調査中 | 想定震源域やその周辺でマグニチュード6.8以上の地震などが起きた直後 | 専門家が関連性を調べ始めた、という段階。まだ結論は出ていない |
| 巨大地震注意 | M7.0以上M8.0未満の地震、またはプレート境界の通常と異なるゆっくりすべりが確認されたとき | 日頃の備えの再確認を呼びかける段階 |
| 巨大地震警戒 | 想定震源域でM8.0以上の地震が起きたとき | 指定された地域で1週間の事前避難が求められる、最も強い段階 |
| 調査終了 | 調査の結果、上の条件に当てはまらなかったとき | 特別な防災対応の呼びかけはなし |
ニュースで「臨時情報が出ました」と聞いたときは、まずキーワードがどれなのかを確認 してください。「調査中」と「巨大地震警戒」では、求められることがまったく違います。
誰が・なぜ出す?発表の仕組み
発表するのは気象庁です。想定震源域やその周辺でM6.8以上の地震が観測されると、まず数分〜30分程度で「調査中」が発表されます。あわせて、有識者が集まる「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」が臨時で開かれ、その地震が南海トラフ地震につながる可能性をどう見るかが検討されます。
この検討にかかる時間はおおむね2時間程度が目安とされています。つまり、「調査中」を見てから結論が出るまでには、それなりの待ち時間があります。この間に慌てて買い物に走るより、家の中の安全を見て回るほうが役に立ちます。
なぜこうした仕組みがあるのかというと、南海トラフでは想定震源域の東側と西側があり、過去に片方で大地震が起きた後、しばらくしてもう片方でも起きた例が知られているからです。1854年の安政東海地震と安政南海地震は約32時間差、1944年の昭和東南海地震と1946年の昭和南海地震は約2年差でした。「続くことがある」という経験が、この情報の土台になっています。
出たらどうする?「注意」と「警戒」で変わる行動
ここが一番知りたいところだと思います。ただし、避難するかどうか・どこへ行くかの判断は、お住まいの市町村が地域ごとに定めています。ここでは国が示している考え方の枠組みをお伝えしますので、具体的な行動は必ずお住まいの自治体の案内に沿って決めてください。
巨大地震注意が出たとき
巨大地震注意では、地域を限って避難を求めることは基本的にありません。呼びかけの中身は、日頃の備えの再確認と、すぐ避難できる態勢をとっておくことです。具体的には、家具の固定が緩んでいないか、非常持ち出し袋の中身と電池が生きているか、家族の集合場所と連絡方法が共有できているか、といった点検になります。
仕事や学校を休む必要はありません。内閣府が2025年8月に改訂した防災対応ガイドラインでは、適切な防災対応をとったうえで社会経済活動は継続する と位置づけられ、鉄道についても巨大地震注意の発表時は平常どおりの運行とし、原則として運行規制はしないことが明記されました。2024年に発表されたときのイベント中止や買い占めの反省を踏まえた整理です。
巨大地震注意で必要なのは、生活を止めることではなく、備えを点検して避難できる状態にしておくことです。
巨大地震警戒が出たとき:事前避難の対象になる人
巨大地震警戒は、南海トラフの想定震源域でM8.0以上の地震が起きた場合に発表されます。運用開始以来、これまで発表されたことはありません。
この場合、市町村があらかじめ定めた「事前避難対象地域」の住民は、1週間の事前避難が求められます。対象地域は2種類あり、津波の到達が特に早い地域などで住民全員が対象になる「住民事前避難対象地域」と、避難に時間がかかる高齢者や障害のある方などが対象になる「高齢者等事前避難対象地域」に分かれます。内閣府が2025年8月に公表した初の全国調査では、事前避難の対象となる人は52万人を超えていました。
自分の家が対象かどうかは、市町村ごとの指定状況を見ないと分かりません。臨時情報が出てから調べ始めるのでは間に合わないので、平時のうちに一度だけ確認しておく のが結局いちばんの近道です。
お住まいの市町村名と「事前避難対象地域」で検索し、自宅が指定されているかを一度確認する。指定がない自治体も多く、その場合は「対象外だった」と分かるだけで十分です。
呼びかけはいつまで続く?期間の考え方
巨大地震注意の場合、特別な注意の呼びかけは地震発生からおおむね1週間 が目安です。1週間が過ぎたからといって危険がゼロになるわけではありませんが、統計的に見て、続けて大きな地震が起きる可能性は時間とともに下がっていきます。
巨大地震警戒の場合は少し長く、まず1週間の警戒(事前避難を含む)があり、その後さらに1週間程度は注意の呼びかけが続く枠組みです。事前避難が解除されても、しばらくは備えを緩めない期間が残ると考えてください。
なお、呼びかけの終了も気象庁と内閣府から発表されます。始まりだけでなく終わりも情報として出るので、ニュースを追っていれば「いつまで気を張ればいいのか」が分からないまま宙ぶらりんになることはありません。
過去に出たことはある?実例から学ぶ
運用開始後に初めて発表されたのは、2024年8月8日です。この日の夕方、宮崎県の日向灘でM7.1の地震が発生し、日南市で最大震度6弱を観測しました。地震の直後に「調査中」が発表され、評価検討会を経て、同日19時15分に「巨大地震注意」が発表されています。
その後、南海トラフの想定震源域で新たな地震活動や地殻変動の変化は観測されず、8月15日17時をもって政府の特別な呼びかけは終了 しました。地震発生からちょうど1週間です。
このときの1週間で起きたことも、備える側としては覚えておく価値があります。店頭から水やカセットボンベが消え、夏の行事や旅行のキャンセルが相次ぎました。必要な人に物が届かない状況が各地で起きたわけです。だからこそ、その後のガイドライン改訂で「社会経済活動は継続する」という考え方が前に出ました。臨時情報が出てから買いに走る形だと、自分も困るし、誰かの分も減らしてしまいます。
臨時情報が出た後のまとめ買いは、必要な人に物が行き渡らなくなる原因になります。買い足すなら平時に少しずつが基本です。

特別なことより、ふだんの備えの点検を
臨時情報のために特別な防災グッズを用意する必要はありません。求められているのは、ふだんの備えがちゃんと使える状態かを見直すことだけです。水と食料の量は足りているか、賞味期限は切れていないか、懐中電灯やラジオの電池は生きているか、寝室の家具は倒れてこないか。この4点を見るだけでも、臨時情報が出たときの落ち着き方がまるで違います。
我が家は夫と猫のモカとの二人と一匹ですが、臨時情報が出たときに慌てずに済んだのは、備蓄をふだんの買い置きで回していたからでした。逆に、ペットフードの備蓄が思ったより少ないことに気づいたのもこのときです。点検すると、たいてい何か1つは穴が見つかります。
備えの全体像から確認したい方は、地震への備えのまとめ記事に優先順位をつけて整理してあります。上から順に埋めていけば、臨時情報のたびに慌てる状態からは抜けられます。全部そろえようとしなくて大丈夫です。水と食料、明かり、家具の固定。まずはこの3つが手当てできていれば、家庭の備えとしては十分に及第点です。
よくある質問
まとめ|前回・次回
南海トラフ地震臨時情報は、予知ではなく注意の呼びかけです。「調査中」は検討が始まった合図、「巨大地震注意」は備えの点検を促すもの、「巨大地震警戒」は指定地域で1週間の事前避難が求められるもの。この3段階の違いさえ頭に入っていれば、速報を見たときに何をすべきかで迷わずに済みます。
情報の受け取り方については、気象情報のしくみをまとめたキキクル(危険度分布)の記事もあわせて読むと、公的な情報の全体像がつかめます。また、臨時情報が出たときはデマも一緒に広がります。見分け方は災害時のデマの見分け方で扱っていますので、こちらもどうぞ。
なお、事前避難対象地域の指定や自治体ごとの防災対応は地域差が大きく、見直されることもあります。自宅が対象かどうかは、お住まいの市町村の防災担当ページで確認してください。
